第二部 3.新しい春

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第二部 3.新しい春

 三月の私と弟の卒業式を終えると、私たち一家は故郷の家に戻った。  父は弟が入学する中学とは別の学区の中学に赴任することになり、引っ越しの片付けも早々に出勤して忙しそうだった。母は、前に勤めていたスーパーで、四月から雇ってもらえることになったらしく、仲良かったパートさん達がまだいたと喜んでいた。  戻ってすぐに、ご近所や親戚には両親と私、弟で挨拶をしてまわった。  まず、今この集落の取りまとめをやっている、地区長の千田(ちだ)さんの家に行った。出てきたのは、いつも近所の田んぼや畑で農作業をしている白い髭のおじいさんだった。小学一年生の冬のあの儀式で、皆の前に出てきた袴姿の人に似ているおじいさんだ。 「美緒ちゃんも隆介くんも大きくなったね。戻ってきてくれて、おばあちゃんも喜んでるだろう」  にこやかに笑う様子は、あの夜の威厳に満ちた感じとは違っていた。  美織ちゃんの家にも行ったけれど、玄関先に美織ちゃんと出てきた絹子おばさんは昔と雰囲気が変わっている気がした。 「健夫(たけお)兄さんにも、尚美(なおみ)さんにも、それに美緒ちゃんにもあのきは本当に迷惑をかけて……」  そう謝る絹子おばさんを父と母は制して、母は、「また一からお付き合いお願いします。美織ちゃんも美緒と仲良くしてね」と声をかけていた。 「美織ちゃん、あとで図書館行こうよ」と私が言うと、美織ちゃんはにこにこして「うん!」と答えた。 「じゃあ、お昼食べて、一時に家の前で待っててね」と約束して美織ちゃんの家を後にした。 「絹子さん、なんだかやつれて、元気がない感じだったわね……」  帰り道、母が父に心配そうに話していた。
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