第二部 3.新しい春

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「美織ちゃんは、お父さんのこと黙っているお母さんのこと、怒ってないの?」  私はふと気になって聞いてしまった。美織ちゃんはすごく淡々と答えてくれた。 「私が美織ちゃんを閉じ込めてしまったあと、お母さんは美織ちゃんのお父さんと話をして目が覚めたんだって。おじいちゃんの言うことが正しい、言う通りにすればいいと思い込んでいた。それで美緒ちゃんを傷つけ、美織まで苦しめてごめんねって、何度も私に謝ってくれたの」  あのとき、「美緒、美織ちゃんも、そして絹子おばさんも、あの家の被害者かもしれないな」と言った父の言葉を思い出す。 「だから、お母さんのことは怒ってないよ。それにね……」  美織ちゃんの顔が曇った。 「お母さん、最近変なの。あの裏庭の小さな家の前に塩やお酒を置いて、『ごめんなさい、ごめんなさい』って泣いてることがあるんだ」  あそこには、美織ちゃんのお父さんがいたわけではなかった。それでは叔母さんは、誰に謝っているんだろう?
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