第二部 4.切らずの森

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第二部 4.切らずの森

 私が通う高校は、うちの集落から行くと駅の向こう側の山の麓にあった。山と言っても標高100メートルほどの小さな山で、学校の皆はその山をただ“裏山”と呼んでいた。  私や耕ちゃんの集落からは歩いて通うのは無理なので、雨でも合羽を着て自転車で通っていた。冬に雪が積もれば、駅前から1時間に2本しかない公営バスに乗るか、親に送ってもらうしかない。  鉄道の線路を越えて真っ直ぐに進み、裏山の麓の森にぶつかったところにあるT字路を右に曲がり、森の脇の道を少し行くと高校の前に出る。  T字路の曲がり角には、『門脇(かどわき)商店』という食料品店があった。  その店では酒や調味料などのほかに、菓子パンやスナック菓子も売られていて、店の前には飲み物の自販機と、飲料メーカーのロゴが入った古びたベンチが二つ置かれている。  駅前に戻らないとコンビニがないので、この店が部活帰りの高校生の唯一の憩いの場になっていた。  裏山の麓の森のことを、皆『切らずの森』と呼んでいた。  高校の部室棟の窓からは森がよく見渡せるが、鬱蒼と木々が茂るちょっと薄気味悪い場所だった。  部活終わりに、門脇商店のベンチで同じ学年の男女でおしゃべりしていると、高校の近くに住んでいる子から『切らずの森』の噂話が出て盛り上がった。
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