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ーー森の中に入ってそのまま帰ってこない人がいたらしい。
ーー森の木を切ろうとすると、怪我人や病人、ひどい場合は死人が出るという噂がある。
ーーふざけて肝試しに入った若い男女のグループがすごく怖い目にあったらしい。
ーー夜、森の脇を通ると、火の玉が見える。
そういう話は盛り上がる。皆で興奮してしゃべっていると、「ほんとかなあ」と、ビールの空き瓶のケースを裏に運ぼうと店から出てきた店主のおじさんが話に加わった。
「俺が子供の頃は、そんな噂なかったけどな。『迷子になるから森に入ったらだめだ』とは言われてたけどさ」
「そうなんだーー」
なんだか急にしらけてしまって、その日はそれでおしまいになって解散した。
私は話に混ざっていた耕ちゃんと、自転車で帰路についた。
駅前に近づくと、ちょうど電車が発車したところで、珍しく踏切が閉まっていた。電車が通過して踏切を渡り、駅舎の横を通るとき、ふと私は駅舎の出入り口を見た。
美織ちゃんとは今日は待ち合わせしていなかったけれど、それでも美織ちゃんがたまたま帰ってきていないか気にする癖ができていた。
すると、本当に美織ちゃんが駅舎の前にいて、三人の不良っぽい男の人に囲まれていた。
「耕ちゃん、ちょっと待って! 美織ちゃんが!」
気づかずに通り過ぎようとする耕ちゃんを呼び止めるのと同時に、私は自転車を駅の脇に放り出して、美織ちゃんのところへ助けに走り出した。
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