第二部 4.切らずの森

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「美織ちゃん!」と私が駆け寄ると、「美緒ちゃん!」と美織ちゃんがすがるような、でもホッとしたような目で私を見た。 「ここで彼女と待ち合わせてしてたんです。 もういいですか? 美織ちゃん、行こう!」  そう言って美織ちゃんの手を掴んで歩いて行こうとすると、三人のうちの一人に通せんぼされた。   その人がにやにや笑って、「あれ、もう一人増えた。ふーん、こっちもよーく見たら可愛いじゃん。一緒にドライブ行こうよ」と言って、少し離れたところに停めた赤い派手な車を指差した。  よーく見たら? なんか失礼だ! そのまま無視して行こうとしたら、一人に腕を掴まれた。乱暴に振りほどこうとしたけれど、力で敵わない。 「嫌がってるだろ」  遅れてかけつけてくれた耕ちゃんが止めてくれる。 「なんだ、もうひとり増えたぞ、今度は男か」  男達は、からかうように笑う。高校生の男子ひとり、女子二人では、敵いそうにない。 「ほら、お前は帰れ。彼女たちは僕らと楽しいことしようぜ」    私はそれでも抵抗する。 「おいおい、何やってるんだよ」  そのとき、駅舎の方からのんびりとした声がした。  大きなリュックを背負い、紙袋を持った若い男の人がにこにこして立っている。 「あれ、兄ちゃん!」  耕ちゃんがびっくりしたような声を挙げる。   「この駅さ、まだICカード使えないのね? うっかりしてたわ。小銭はないし、精算に時間かかっちゃったよ。いい加減、使えるようにしてくれよ」  そんなことをぶつぶつ言いながらこっちにやって来たのは、東京の大学に行っている耕ちゃんのお兄さんの賢作さんだった。
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