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賢作さんは、三人組のひとりを見て言った。
「君、東中の卒業生だよね? 僕の二年下だったんじゃない? 確か……」
と、賢作さんは苗字を言い当てた。
「お兄さん、元気? 夏に同窓会やることになってるから、よろしく伝えてね」
そんなことを言われて急にバツが悪くなったみたいで、三人は私達の腕を離してペコっと賢作さんに頭を下げると、車の方に戻って行った。
「この子達、僕の妹みたいなもんだから、もうからかわないであげてねーー!」
賢作さんは彼らの後ろ姿に声をかけた。
「兄ちゃん、どうしたのさ? 夏休みでもないのに」
男達の車が走り去ると、耕ちゃんが嬉しそうに聞いた。耕ちゃんはお兄ちゃん子なのだ。
「うん、修論のために、現地で調べたいことがあってさ、フィールドワークってやつ?」
賢作さんはふざけて気取ってみせる。
「なんか、かっけーな」
耕ちゃんからは、大好きなお兄さんが帰ってきた嬉しさが見て取れた。
「美緒ちゃん、それに美織ちゃんだよね? 大きくなったね」
昔、何度か耕ちゃんと一緒に遊んでもらったことがあったので、私たちのことを覚えていてくれた。
「ご無沙汰しています」
「ありがとうございました」
私と美織ちゃんは頭を下げた。
それから、私と耕ちゃんは放り出した自転車を取りに行き、四人で歩いて帰った。
賢作さんは、東京の大学院で民俗学の研究をしているそうだ。自分が生まれ育った地域の民間伝承や民間信仰をテーマに論文を書いていて、地元の人に話を聞くために帰ってきたらしい。
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