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第一部 5. 美織ちゃんの家
美織ちゃんの家は、私の家から歩いて五、六分の所にあった。
でも、美織ちゃんと遊ぶのは、たいてい私の家だった。
「美織と遊ぶんなら、美織んちでなく、うちさ連れてこい」
そう言って、祖母は私が美織ちゃんの家に行くことにあまりいい顔をしなかったのだ。
それでも、近所の休耕地で遊んだあと、こっそり美織ちゃんの家に寄ることがあった。
私が顔を見せると絹子おばさんはすごく喜んでくれて、東京の見たこともないクッキーやチョコレート、珍しい南国フルーツのジュースを出してくれた。
時には、女の子なら喜びそうなピンク色の文房具セットやリボンがたくさん付いたハンカチを二人分用意してくれていて、まず私に選べと言った。
「美織ちゃんは? 先に選べば?」
「美織は残ったのでいいわね」
美織ちゃんが答える前に、当たり前のように絹子おばさんが言う。あんな言い方したら、言われた方は肯くしかないような言い方だった。
「うん。美緒ちゃんが先に選んで」
美織ちゃんも嫌な顔をせずににこにこ笑って言うので、私は恐縮しつつ美織ちゃんが好きそうな方を残して選んだ。
実は、私はピンク色やフリフリしたものはそんなに好きではなかった。正直、どっちでもよかった。
それに、もらって帰って祖母に見つかると、美織ちゃんの家に行ったことがばれてしまうので、それらのプレゼントは私の部屋の押し入れの引き出しにこっそりしまうしかなかったのだ。
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