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6.言えない
ふさぎ込みがちだった自分に、秋野は気づいていた。学校から帰ると珍しく早く家に帰っていた彼が、食卓の上で片肘で頬杖をついて一也を待っていた。
「とりあえず座って」
硬い表情でそう言って、彼は一也を自分の向かいに座らせた。
「なにか隠してる?」
「な、んで?」
しどろもどろに返すと、秋野は探るような目で一也を見つめてため息をついた。
「普通わかるだろ。そんな暗い顔を毎日してたら。受験のストレスが出てるのかなとも思ったけど、模試の結果見ると思い悩むような数字じゃないし」
言われて驚いた。秋野はものすごく多忙だ。まさか模試の結果にまで目を通しているとは思っていなかった。
そう思ったらますます胸がどきどきしてしまった。
「で? その暗い顔の原因はなに」
「…………」
「黙秘権?」
はああ、とため息を落として、彼は頬杖を解く。
「こんなこと言うのはどうかと思うんだけど、ストレスためたくないんだよね。君のその悩んでますって顏、結構ストレスなの。俺のこと思うなら黙秘権放棄してもらえるとありがたいんだけど」
秋野らしい手前勝手な言い分だ。でもそんな言い方をしながら、秋野が実はものすごく一也を心配していることを一也は知っていた。引き取られて以来、秋野は口調はこんなでも、一也から聞いた悩み事をそのままにしたことなんてなかった。学校でいじめられたことを言えば、躊躇せず相手の家に怒鳴り込んだ。子供のけんかに親が出ていくことを敬遠するタイプかと思っていただけにその時も驚いたけれど、秋野はしゃあしゃあと「むかついたからけんか売りに行っただけ」と言い放ったものだ。
きっと今回もそうやって解決するつもりだろうなと思った。でも今回ばっかりは、秋野の思惑通りの解決は望めそうにない。悩みの原因は秋野なのだから。
「どうしても言いたくない?」
真っ黒な大きな目がじいっとこちらを見据える。その目をまっすぐになんて見られなくて一也は俯いた。
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