公園の秘密基地

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公園の秘密基地

 花山公園の一角にある、花山神社。そこが啓介の秘密基地だった。当時、そこには神社はなかった。もちろん、お社や鳥居などはなく、藪が生えていただけだった。 その藪には子供一人がぎりぎり通れるような隙間があった。中に入ると、これまた子供一人がゆったり座れる程度の空間があった。 啓介はこっそりとそこへ行っては、何をするともなく座り込み、自分だけの基地を楽しんだ。 そのうちそこへ、宝物を持ち込むようになった。帽子付きのどんぐりが沢山ついた小枝だとか、変わったかたちの石だとか、艶のあるカラスの羽だとか、公園や道端などで拾った物だった。 ある日、いつものように秘密基地へ入ると、そこには先客がいた。 「ええっ?」 啓介は変な声を出した。そこにいたのはとても小さなおじいさんだった。庭先にたまに見かける小人の置物のようなサイズだ。白い着物のようなものを着ていて、白い長い髪と髭。ほんのりと光を放っているようだった。 「お主か、お供え物をしてくれたのは。」 「お供え物?」 おじいさんは持っていた杖で石やらどんぐりやらを指し示した。どうやらそれらは、彼にとってはお供え物になるらしい。 「うーん、自分用に集めただけなんだけど…。」 小柄でにこにことしている相手に恐怖心はわかず、啓介普通に会話していた。 「そうなのか?わしは嬉しかったんじゃが…。神を忘れずにいてくれる者がいたと思ってのぉ。」 おじいさんは肩をがっくりと落とした。 「神…なんの神様なの?」 「わしか?わしは、憩いの場の神じゃ。」 啓介は首をひねった。商売繁盛だとか、恋愛成就だとかは聞いたことがあるけれど、憩いの場の神様は初めて聞いた。 しっくり来ていない啓介の様子を見て、神様は説明し始めた。 「人々が安らげる場所をつくる神様じゃ。わしにお供物をしたり祈りを捧げたりすると、素敵な空間ができあがっていくんじゃ。今はみんな、わしのことを忘れてしまって、お主のような子供一人が寛げるような所しかないがの。」 そんな神様もいるのかと、啓介は感心してしまった。神様の言う通り、この公園は雑草が伸び放題で、一つしかないベンチにもかびが生えている。あまり遊びに来る人もいない。 「わしは、ここをもっと居心地の良い場所にしたい。お主、協力してくれぬか?」 「協力って…何するの?」 突然の話に、啓介はやや声をつまらせながら返した。 「何、今までとそうかわらぬよ。」 神様の話では、お供物や願いの多さで神様自身の力が変わってくるとのことだった。啓介にはこの秘密基地にお供物をもっと持ってきてほしいという。 「そうじゃな、まずまつぼっくりを100個程かのう。」 「100個!?」 そんなに集められるだろうかと心配になった啓介に、神様は期限は特にないから大丈夫だと言った。また、別にこれは秘密でもなんでもないから、友達と協力しても良いとも言った。 「むしろ、協力者は多いほうが、わしの存在を信じてくれる者が増えて良いのじゃ。」 神様に嫌だとも言えないし、できないことではなさそうだったので、啓介はとりあえず協力することにした。ただ、友達にこの神様のことを話して信じてもらえるかどうかについては、自信がなかった。
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