建設計画

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建設計画

 マンションの建設計画は唐突に啓介たちの鼻先に突き付けられた。 啓介と大輝はいつものように公園へ行ったのだが、柵で囲われて入れなくなっていた。柵には張り紙がしてあった。 『〇〇マンション建設予定。立ち入り禁止 △△建設会社』 啓介と大輝は顔を見合わせた。 「この公園なくのるの…?」 「とにかく神様に会わないと!」 誰にも見られていないことを確認し、二人は柵を乗り越え秘密基地へ向かった。 神様はしょんぼりとしていた。 「そうじゃ。このままでは、この公園はなくなってしまう。せっかくお主たちが頑張ってくれたのにのう。」 啓介も大輝もやりきれない気持ちになった。ここでみんな楽しそうに過ごしていたのに、それがなくなってしまうのだ。 「どうにかできないの、神様?」 「そうだよ、神様じゃんか。どうにかなるんじゃないの?」 啓介と大輝の言葉に神様は首を振った。 「この地に人々が住みたい、住まわせたい、と願う思いの方が、わしの力や公園を残したいという思いより強いのじゃ。結局、神とは人の思いでしか動けないんじゃ。」 「そんな…。」 啓介は絶句した。 「神様はどうなるの?」 大輝は心配そうに聞いた。 「わしは消えてなくなる。公園がなくなれば、ここを憩いの場とすることはできぬ。人々はわしを完全に忘れ去るじゃろう。」 そんなのあんまりだ、と啓介は思った。ここを憩いの場にしたい、という人々の願いのもとに神様はいてくれたのだ。そして、お供え物と信じる力の助けを借りて、居心地のいい場所を作ってくれていたのだ。それを、また別の人とはいえ、人の願い一つでなしにしてしまうなんて酷いと思った。 啓介はまだ集めている最中の、足元のどんぐりを見つめた。そして思いついた。 「ねえ、神様は帽子付きどんぐりを250個って言ったけど、それをもっと集めたらすごいパワーになったりしない?」 神様と大輝は啓介を見つめた。 「それは、そうじゃ。お供え物が多ければ、わしは力をもっと発揮することができる。じゃが、この『まんしょん建設計画』を止めるには、お主ら二人が集めきれる量の帽子付きどんぐりだけでは足りぬ。時間もない。」 それだ、二人だから間に合わない。啓介は自分の考えを話した。 「大輝は俺の話を信じて、一緒にお供え物集めをしてくれた。それを広めるんだ。」 「信じてくれるかな…。」 「実際にやってるところ見れば、きっとついて来てくれるよ。大輝だってそうだったじゃないか。」 啓介はもうこれしかないと、大輝を説得するように言った。神様はそれができるのならばこの計画を阻止できる可能性はある、といった。加えて帽子付きどんぐり以外に集めるものを教えてくれた。 「そうじゃな…カラスやハトなんかの羽や楓の葉なんかもあると良い。しかし、わしはお主たちに嫌な思いはさせたくないんじゃ。ここがなくなるのならば、それは時代の流れでもある。」 「ここがなくなるのが、俺たちは嫌だよ。神様、とりあえず頑張ってみるよ!」 大輝の言葉に、神様は無理はするでないぞ、とにっこりとほほ笑んだ。  勝負の休み時間。啓介は校庭で隠れおにをしている美海(みなみ)に話しかけた。神様と公園を守るために協力してほしいと伝えた。 「だから最近やたら、そのビニール袋に物を集めてたんだ。」 美海はあっさりと納得した。啓介は拍子抜けしてしまった。自分の話を聞いてくれそうな人選をしたのは確かだが、こうもすんなりいくとは思っていなった。 「その話を信じてもらうために、ここまで行動するのはすごいね!啓介は将来役者に向いてるんじゃない?」 違った。話を聞いてくれはしたが、信じてはいない。面白い作り話として伝わっている。大輝の時のようにはいかない。 啓介は他にもあたってみたが、みんな似たような反応だった。大輝の方は男子を担当していたが、同じような結果に終わったということだった。 放課後、とりあえず自分たちで集めた分のお供え物を持って、柵を越えて啓介たちは神様に会いに行った。信じてもらえなかったとしょんぼりしている啓介たちを神様は慰めた。 「そういう時代じゃ。お主たちはよくやった。」 悔しい。啓介はそんな風にすんなりと受け入れることはできなかった。大輝もむすっとした顔をしている。 「大輝は信じてくれたのにな…。」 「俺だって実際に神様を見るまでは、半信半疑だったけど…あ、そうだ!」 大輝は突然神様の肩を掴んだ。 「ねえ、神様、ここから出られない?半日だけでも!神様の姿を見ればきっと信じてくれる!!」 神様は残念そうに首を振る。 「無理じゃ。わしはここから動けぬ。動けるのは神無月の時だけじゃ。しかも出雲大社に向かうだけで、どこかに自由に行けるわけではないんじゃ。」 啓介と大輝が何か方法はないかと頭を悩ませていると、がさがさと音がした。二人ともびくっとして、腕組みをほどいた。もしかして、工事の人が来たのだろうか。ここが見つかってしまったら、本当に終わってしまう。 「あ、本当に秘密基地なんだ。うわっ…神様本当にいる!!」 顔を出したのは美海だ。啓介は驚きつつも手を引いて招き入れた。秘密基地の中は三人と一柱でいっぱいだ。 「美海、信じてくれたの?」 「まあ、半信半疑だったけど、啓介って人を出し抜くようなというか、嫌な思いをさせるような作り話はしないなぁと思って。」 啓介は嬉しくて、何度もありがとう、と言った。 「お主、わしが見えるということは何かしらお供え物を持ってきてくれたんじゃな?」 神様はにこにこと美海に問いかけた。美海は持ってきたビニール袋の中身をざざあっと地面にあけた。 「これでもいいかな?私のおばあちゃん家が沖縄にあって、いつも夏に遊びに行くと拾ってたの。たくさん家にあったから持ってきた。」 さまざまな形の貝殻だった。真っ白なものも淡いピンク色のものもある。神様は嬉しそうに貝殻を手に取って眺めた。 「こういった海のものもいいのう。ありがたく受け取らせてもらう。」 美海はほっとしたように笑顔を浮かべた。啓介は少し意外に思い、神様に疑問をぶつけた。 「神様、拾った物ならなんでもいいの?」 「そうとも言えるが、少し違うんじゃ。拾った本人がそれを価値あるものと思っていると良い。あと、自然のものじゃな。人が作ったものからはわしは力を得ることができんのじゃ。」 神様は啓介と大輝にはそのようなことは言わなかった。そう言わなくても、啓介たちが拾える自然の物で価値があると思えるものが分かっていたのだろう。啓介は、今聞いたこの情報は、この公園と神様を守るために生かすことができると思った。 「じゃあ、今からでもみんなにお願いしてみよう!何かしら、みんな家に持っているかもしれない。持っていなかったとしても、美海も俺たちと一緒に頼んでくれれば、拾い集めるのを手伝ってくれるかも!!」 「よし、さっそく行こうぜ!」 啓介、大輝、美海の三人は、公園の近くの友達の家から順にお願いに回ることにした。
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