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私は落ちてきた。どこからと言われたらもちろん空から。この若者に入って生命活動を再開させた訳なんだけど、若者の両親は喜んで!
この若者、5年前に真冬の川で溺れたみたいで、どうも、今の人間の医術じゃあこの若者の脳は生き返らないって言われていた。それで私が入って生き返ったんならそれはそれは大喜びするなあ。
それからはこの体のリハビリ。やっぱり長いこと寝ていたから、動かないところが多くて。
リハビリと一緒に勉強も始めたのだけれど、割とすんなり理解ができて楽だった。若者の両親、母さん、父さんは私が生き返ったことを喜んでなんでも好きなことをすれば良いってにとても嬉しそうにいうのだもの。私も頑張ってしまった。この体に入って早くも2年、勉強もリハビリもやりながら、中高すっ飛ばして、大学まで行ったのだからなかなか頑張ったもんよ。
でさ、友達とか作ったり、おしゃれとか食べ物とか楽しんでいた時にさあ、お前は話しかけにきたわけだねえ。
若者の名前をねっとり呼びながら、掴んできたわけだよ。私は若者になる以前のこの地の人間関係なんて知るよしもないから、馬鹿正直に聞いたのだよね。誰って。そしたらお前、その質問には答えずに笑ったよなあ。それって、私にあの写真をばら撒かれたくなかったら、金を寄越すか、もう一度死ねって。
あの写真と呼ばれる物に心当たりがない。それに一度死んだ人間に死ねとかよくゆうよと思いながらも、どちらも嫌だって言ってその場を離れたわけなんだよね。そしたら次の日、名前付きの写真をばら撒いたんだよね。
私の入れ物の過去とはいえそれは見ていて痛々しかったよ。ボーリョクをまあ、大盤振る舞い特化サービス盛り合わせみたいな半裸の写真だったからね。それでそいつは変態ですって今の姿までセットでばら撒いたんだよね。センスのかけらもねえなって思ったの。
フリフリの襟と袖、紺色のリボンを結んだ金色に染めた長い髪、紅いハイヒールも立派なファッションだっていうのに変態って一言でまとめるのがねえ。幸い大学からの知り合いはみんな、写真に関して私に同情的だったよ。お前が望んだとおりのすごい「いじり」は起きなかったなあ。
それで、無視していたらさあ、学校まで押しかけてきてわざわざ、私のことを呼んだんだよ。で人気のないここにまあ、誘拐されてきた。いやー、私さ、薄々気づいてはいたんだけど、この若者一人で溺れたわけじゃあないんだよなあ。
そうだよなあ、ばら撒いた写真、前にも使ったからまた使ったんだろ。笑うなよ。仕方がないじゃないから、私はお前が溺れさせた若者じゃあないのだから。あの写真、溺れさせる直前の若者を撮ったのだろう。若者は写真を消すからって言われて真冬の川の中にお前とお前の仲間が飽きるまでいさせられた。それで最期は、お前が岸に帰ろうとした若者を蹴って川の流れがある深い場所に落として本物の若者の人生は幕を下ろした。
助けてほしいか、そっか。そっか。
けどお前は、若者が助けてって言ったの聞いたか。お前が誰かの助けてを一言聞いていたら、まだ救いはあったのだけどないからねえ。お前が今できることは迎えに来るやつが来るまで、今までの行いを後悔することぐらいかねえ。あ、きたきた。ほらお迎えだ。地獄の底で涙が枯れても泣き続けろ。
「いやだねえ、休暇中でも仕事をしたくなるなんてやっぱり職業病なのかねえ」
「後の処理は私どもがやりますので休暇を楽しんでください!神様」
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