消しゴム泥棒とハッピーエンド

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 しかし、吹奏楽部は楽譜に色々と書き込むため、普段はペンケースも持って行ってしまう。だが、本番が近づくと楽譜の書き込みをすることがなくなるため、教室にペンケースを置いて行く――ということも、田中から聞き出した。  何度もその情報が事実かどうか確認する僕に、田中は情報料のカフェオレのパックをチュパチュパ吸いながらいつもの低い声で尋ねる。 「烏田丸、大丈夫か?」 「何の話だ? 僕は単にクラスメートのクラブ・アクティビティの情報を世間話のついでに確認しているだけだが?」 「お前……いや、何でもない」  田中はカフェオレのパックをチュパチュパしながら立ち去った。そのしばらく後、女子が僕を見て笑いながらヒソヒソ話をしているので、制服のズボンを見たらチャックが全開だった。  そんな風に影を宿したロンリーな恋心を抱きながら、僕は白石さんの消しゴムを盗むチャンスをうかがって一週間過ごしていたわけだが、今日とうとうそのチャンスが到来した。  白石さんがペンケースを机にしまって部活へ行ったその日の放課後、僕は教室に居残り続けた。他の生徒達は皆、部活に行ったり、下校したりと教室からいなくなって行く。やがて、クラスには僕一人になった。  用心深く、周囲を視認して、耳を澄ます。誰もいない。教室に誰かが近づいて来る気配もない。しーんと静まり返った教室で僕は一歩一歩、廊下側の自分の席から、窓際の白石さんの席へと近づいて行った。緊張のあまり膝がガクガクした。見られたらヤバいという思いから心臓がバクバクして苦しくなる。目眩がしそうな気分だ……と思ったら本当に目眩がして焦った。……単純に息をするのを忘れていた。  パクパクと息継ぎして再び歩き始め、とうとう白石さんの机の前に立った。ここまでなら大丈夫だ。僕はまだ何もしていない。しかし、ここから先はけして見られるわけにはいかない。女子の机をあさる男子なんて最悪だ。何より白石さんから変態だと思われるのは耐え難い。
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