第一話

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ガチャリと開いたドア。 少し待っていてくれませんかと彼はまた、お隣りへ。何度も頭を下げていた。 ドアは全開で、その部屋の中を見た。 独り暮らしだろうか?洗濯物というか脱ぎ散らかしたものがあちこちにちらばっているようだ。でも…。 そして、彼は戻ってくると。 「あの?間違えてたらすみません、里中さんですか?」 え?ハイと小さな声で答えた。 そうですか、間違っていたらどうしようかと、私、ブルードサイエンステックの下田です。 え?取引会社の? いやーそうですかという彼の後ろが気になってしょうがない。 「あの?ぶしつけなんですが、片付けお手伝いしましょうか?っていうか片づけませんか?」 「イヤー、すまないな、実は片づけ苦手で」 入ってと言われ、お邪魔して片付け始めた。 猫ちゃんのトイレもそのままなのか匂いがしているし、エサ入れも不潔、水入れは洗ってはいる物のキッチンもゴミだらけ。 「あの、洗濯物だけでも」 「あー、クリーニングか」 いやいや、洗濯機で十分でしょうと、指示していく。 「イヤーさすがクリーナーハウスさん、家の掃除もしてくれればいいのに」 すみません、企業相手の掃除屋ですから。 二時間、私はその間、彼のことを忘れることができた。 仕事の話と、下田さんの話。 おひとりで猫ちゃんの世話大変じゃないですかに実はコロナ離婚しましてと彼は言った。 奥さんも仕事人間で、結局、二人とも家にはいつかない生活にすれ違いばかりで、この先も介護だけなら、やりたいことをやりたいと奥さんは出ていかれたのだそうだ。 「円満離婚です」 すみませんなんだか悪い事を。 いいえ、あなたもあんな男別れて正解ですよと言われてしまった。 お恥ずかしい。 「これ」 謝礼ですと言われたがお断りさせていただいた、またお願いしますと。 「じゃあ、お食事、お酒でもいかがですか?」 先ほどお茶をいただいた時にも冷蔵庫の中は空で、外へ買いに出ていかれた。 そちらも遠慮しようとしたら、実は、外食は会社のそばでばかりで気が付けばこの辺のことはほとんど知らないのに気が付いたそうだ。 「では、私チョイスでもいいですか?」 ええ、お願いしますと、外へと出た。 ここは奥さんの職場に近くてと彼は言った、でも彼女は違うところへ行かれたそうです。 私は近所にお住まいですかの問いに、実はもっと先に住んでいて、ここは通り道だというと彼はすみませんいらないことを聞いてしまった。と頭を下げた。 「そんなに気にしないでください、そこを曲がったところです、近いし、安いのと遅くまでやっているので」 縄のれん、それをくぐった。 「いらっしゃい」 へー、なんだか落ち着いた感じですね。 ここは私しか知らない、あいつとは来たこともない。と小さな声で言ったけど、しっかり聞かれていた。 何故ですか? おしゃれ好き、フレンチ、イタリアン、流行の物が好きで、こういうところは行きたがらない。 二人ビールで乾杯して、おいしい料理をいただいた。 ベランダから落ちたとき、的確なアドバイス、ありがとうございましたといわれた。何かなさっているんですかと聞かれ、ロッククライミングをしている話をした。 そうか、それでと言われ、自己紹介がてら自分たちの仕事の話をしてそれぞれのねぐらへと返った。 ただいま。 元々独り暮らし、彼との部屋を行ったり来たりしていたけど、それも終わり。 すぐに腕まくりをしてゴミ袋にあいつの物を入れ始めた。 下田さんのおかげで吹っ切れた。 楽しい食事は私の事を気にしてくださった。仕事関係でもあるし…でも彼は知らないな?
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