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第二話
其れから一週間、私は仕事に打ち込んだ。
私はクリーナーハウスという企業向けのメンテナンスサービスや掃除をしている会社の営業。たまに手伝いもするがほとんどが外回りだ。
そして特殊なことをしている。
ゴンゴンゴン。
目の前で、窓を叩く人。
両手を合わせ、この間はありがとうと口が動いている。
スーツ姿で、眼鏡をかけているのは下田さん、結構いい男。
そう、私はビルの窓拭きをしているのだ。
ゴンドラのあるようなところではなく、低下層のビルの窓拭き。安全具をつけて宙吊りになっている。
この会社は半年に一度、後はビルの中の掃除をしているが私ではない人だ。
シュッと洗剤を吹き付けると、猫の絵を描いた。
両手をあげ元気と言っているようだ。そのそばに女性社員だろうか?来て私の絵を見ている。すぐに消した。
彼に何か言っているようだ。
頭に手を置いて、なんだか困ってる。
「サトー下」
「はい」
私は、小さく手を振った。
彼も気が付いてようで手を振ろうとして、女性を押した。すると窓に近づいてきて、手がものを食べる格好になった。指で八、暖簾をくぐる格好にうなずいた。
そして先に店で待っていた。
「悪い、遅くなった」
それほどじゃない。スーツ姿のかっこいい人が目の前に座った。
何か頼んだ?
焼き鳥と、今日のおすすめのお魚を頼んだ。
そう、じゃあえーと、生と子芋を煮たの。
店員さんはいつもありがとうと言っている、あれからほとんど毎日来ているそうだ。
すごい常連じゃないですか?
ここのはおいしくてというと、カウンターの中からありがとうと言う声。
定食もいいですよねと言うと一人の時は日替わりだという。
ビールが来た。
それではお疲れ様、乾杯。
うまい。
美味しい。
仕事の話と猫の話。おいしい料理の話で盛り上がる。そしてお店も数件おしえた、こんなそばにスーパーがあったのかという彼は、今度はここへ行こうなんて言っていた。
「そっかー、三十かー、ごめんな、こんな叔父さんで」
いえ、いえ、まだ四十二、一回りなんて同じですよというと、会社じゃ肩身が狭いよと言われた。
そういえば女性社員に何か言われてましたね?
まあいろいろとな。
私は、下田さんに出会えて吹っ切れた話をさせてもらった、ありがとうございましたと頭を下げた。
すると下田さんはなんともいえない顔になり、頭をかき始めた。
「実はさ」
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