タンカーの下から

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 私は陸にいるときに魂になった。  行き先を案内する人は鳥の体に人の頭を持った青年だった。私は、行き先を家にしようとしたが、あいにく転勤族だったのでどの家にいけば、先に亡くなった夫がいるのかが分からない。  もしかしたら、家でない場所にいるかもしれない。  行き先を決められない私は、魂の案内役になるにはどうしたら良いのかと鳥の体の青年に訪ねた。出来れば海の生き物になりたいとも言った。夫は海で亡くなったから、海で魂になった人を案内したかった。そのなかで、様々な場所に顔を出して、先に行ったはずの夫が見つかればいいと思った。  ディズニーランドだって、思い出の場所だから、行っている可能性はある。他にも思い出の場所はたくさんある。他の魂たちの思い出に便乗して、私は様々の場所に行く。    夫の行き先が見つかっても、案内役になってしまった私はひとつの『あの世』にとどまることは出来ない。でも彼の横顔を、一度でも見られたらそれでいいのだ。  そうして私は今日も、係留中のタンカーの下で、人が落ちるのを待っている。
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