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「ーーアッハッハ! 笑いが止まらないわよ! まぁ飲みなさい!」
「おお、これは酒か? いや、すまないな。美味い飯に風呂、そして酒に宿まで提供してもらえるとは……。暴言を放ってすまなかったな」
私は、おっとうとおかぁが亡くなって、無駄に大きい家に勇者様を招いた。ーーっていうか、貴重な労働力を逃さない。
酒、飯、住居?
そんなもんで人件費も出さずに、魔法とかいうチートを使える人材をタダで捕まえられるなら安いもんよ!
「いや〜、使えない生ゴミって言って悪かったわね。やっぱり、時代はリサイクルね!」
「よくわからないが、謝罪しているのだよな? はっはっは! いいってことだ!」
よく意味もわかっていない自称勇者(住所不定無職)は、ご機嫌におっとうが残した酒を飲んでいる。
会話はできるけど、難しい言葉は理解できないみたいだ。
(都合の)いい男……大好き!
「それにしても、娘には助けられたな」
「お互いさまよ。最初は……アレだったけど」
「まぁ……ボロボロだったからな。村娘には嫌なものを見せたか? どう感じていたのだ?」
少しだけ表情を曇らせながら、こちらの反応を伺うように見てくる。
どう感じていたか、か〜……。
「なんか、痛いっていうか……」
「痛そうな傷だったからか……」
「痛々しくて……」
「もっと酷かった⁉︎」
「特に発言が」
「内面の方⁉︎」
ショックを受けたのか、口をあんぐりと開けている。
そりゃね……。広い農場で一人、剣を振り回してあんなこと叫んでたら、そうなるでしょう。
「まぁまぁ! 今は(都合の)いい男だって思ってるわ! 今夜も働いてもらうわよ!」
「なんだか、俺は騙されてる気がするんだが……」
「気のせい」
「そ、そうか……。うむ、恩人を疑ってすまなかったな」
その後も宴は続き、私達は深夜まで眠った。
そう、主に深夜にやってくる天敵を退けるためにーー。
「眠い……。なんでこんな深夜に起こすんだ?」
「シャキッとしなさい! そんなんじゃ農業はできないわよ。さぁ、天敵が襲ってくるからね。警戒して!」
「ーー敵だと⁉︎」
眠そうに眼を擦っていた男だけど、敵という言葉を聞いて表情を引き締め剣を構えた。
「そう、天敵よ。農場に私達以外の気配を感じたら、弱い電撃をくらわせて欲しいんだけど……できる?」
「ああ、余裕だ。俺に任せろ」
そう言って、男は剣を構えたまま眼を閉じた。
気配を探知するような魔法とか使ってるのかな?
「ーーそこだ!」
カッと眼を開いて剣を振る男は、やっぱり痛い。
でも、遠くからバチッと音がすると同時に「キィッ」という鳴き声が聞こえた。
「やった! 撃退したわ!」
「今のは……野生動物か?」
「そうよ、作物を荒らす害獣。電気柵なんて導入する資金がなくて、やられっぱなしだったの……!」
「俺の魔剣が……泣いてるんだが?」
「私は毎日、盗まれる作物で枕を濡らしてたわ!」
やった!
ついに天敵に一矢報いたわ!
この調子で続けていけば、ヤツらはもうこなくなるかも……⁉︎
「さすが、勇者は民を守ってくれるいい男ね! 頼りにしているわ!」
「そ、そうか。……ふっ、俺たちは民の幸せを護るのが仕事だからな!」
「無駄飯ぐらいの盗人無職ニートなんて言ってごめんなさいね! あなたは立派だわ、この調子でお願いします!」
「そ、そんなことを思っていたのか……。ちょっと傷ついたぞ。ーーだが、いいぞ。そこまで褒められれば、いい気分だ!」
「信じてるわよ!」
「はっはっは! 俺に任せろ!!」
豚もおだてりゃ木に登るって、よく言ったもんだなぁ……。
いや、能力はあったんだろうけど。
平和なこの世界で武力とか本当、役に立たなかったから。ちやほやすればこんなに人の役に立てるなんて……。
よし、もっとちやほやしよう。
世界でお腹を空かせてる人の為にも私の銀行口座の為にも!
「また撃退した! 格好いい!」
「ふははは! そうだろう、そうだろう⁉︎」
ブンブンと剣を振り回して、天敵を撃退していく。
ヤバい、本当に格好良く見えてきた。ずっとウチにいてもらいたいわ。
費用対効果がすごい……!
なんなら、結婚も……!
ーーそうして、一時間ほどたった。
「ああ、もう素敵! もっとやっちゃって!」
「この農場は……俺が守る‼︎」
駆け回りながら叫び、ブンブンと剣を振っている男に、私はメロメロだった。
すごくない?
これで私の農場もーー。
「ーーあのう、すいません」
「はい?……え」
「警察署の者ですが……。深夜に剣を振り回して叫ぶ男と、それを指示する女性がいるって通報を受けたんですがね?」
「あ〜……、なるほど」
滝のように冷や汗が出る。
ヤバいヤバいヤバいって……!
「これは現行犯ですね、署まで同行願います」
「違うんです! 私は関係ない、あの男が勝手に……!」
遠くで他の警官に確保されている男を指差し、自分の無罪を主張する。
連れていかれてたまるか……!
「き、きさまら何をする⁉︎ 俺はあの女に指示されただけだ!」
「はいはい、詳しい話は署で聞くから。君、外国人?」
「この国の人間ではない!」
「そっか。パスポートはある?」
「ぱす……? なんだそれは! 魔法か⁉︎」
「あ、そう。銃刀法違反に加えて不法入国疑いね。どこに住んでたの?」
「あ、あの女の家だ!」
「なるほど、なるほど……。さ、早くパトカーに乗って」
「おい! なんだこの箱は、押すな! 何をするか⁉︎」
そうして自称勇者(住所私の家?)はパトカーで連行されていった。
え、これ私も……ヤバくない?
「不法滞在の共同正犯と、不法就労助長疑いも追加かな。……これ以上抵抗するなら、手錠かけるよ?」
「乗ります! 自分から乗らせていただくし全部話しますから、やめて!」
私は大人しくパトカーに乗り込んで、警察署に運ばれていった。
ーークソ、やっぱり空から落ちてきたのは厄介の種だった!
あの自称勇者、釈放されたらーー絶対にダストボックスに入れてクーリングオフしてやる!
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