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解放の日
「…とりあえず、ハルマの密偵の嫌疑は薄まった。ハルマは騎士団に戻りたいだろうな?」
そう黒騎士団指揮官が僕を見つめて言った。僕は会議室の対面に座る厳しい指揮官の顔を見つめて頷いた。
「はい。僕が記憶を無くした時から親切に面倒を見てくれたのは騎士団ですから、彼らの元で役に立ちたいと思います。」
そう言うと、銀モールがふっと息を吐いて言った。
「ハルマはそう長くここに居たわけではないが、お茶時間を作ったり雰囲気を変えてしまったな。不思議なやつだよ、君は。きっと君が居なくなったら、寂しがる者が多いのではないかな?」
僕はにっこり笑って言った。
「そんな風に言ってもらえて嬉しいです。僕が怪しいって思われていたにも関わらず、皆さん親切にして下さいました。あの、厨房の方にも挨拶して行っても構いませんか?」
すると、書記をしていたアッシュが手を動かしながら、ぶっきらぼうに言った。
「ああ、絶対そうしてくれ。ハルマが挨拶していかなかったら、絶対あいつら臍曲げるからな。そうしたら、ここへの茶菓子が届かなくなる。それは困る。」
僕がクスッと笑うと、アッシュは顔を上げて付け加えた。
「王宮に来たら、ここに寄って顔出せよ?」
結局その日のうちに、騎士団からウィルと副指揮官が僕を迎えに来てくれた。ウィルと僕は仮宿から少ない荷物を引き上げると、王宮の廊下を一緒に歩いた。
僕は嬉しさでニマニマと口元が笑ってしまって、チラッとウィルのカッコいい横顔を見ては、ドキドキと心臓を高鳴らせた。そんな僕をウィルは甘やかな眼差しで見つめるから、僕は早くウィルに抱きつきたくてたまらなかった。
馬車止めに来ると、ウィルは僕を先に乗せて王都へと行き先を告げた。僕は首を傾げてウィルを見上げた。
「…騎士団じゃないの?」
ウィルは前を見ながらボソリと言った。
「二人きりになりたくて、明日は休暇を取ったんだ。副指揮官には了解を取ってある。…ハルを独り占めしたいんだが、ダメだったか?」
僕はウィルの手に自分の手を重ねて言った。
「全然ダメじゃないよ!…凄く嬉しいけど、ドキドキして死にそう。」
多分赤くなっている僕の顔をじっと見つめると、顎を硬い指先で持ち上げてそっと優しく口づけた。僕はその口づけが張り詰めてきた気持ちが癒やされるようで、思わずポロポロと涙が溢れてきた。
「…グスっ。ウィル、もっと口づけて…。」
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