僕は馬です。馬人間です。

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僕は馬です。馬人間です。

「ウィルに聞いてほしい事があるんだ。多分、びっくりして信じられないかもしれない。正直僕自身も、未だに信じられないから。」 部屋に戻って備え付けの茶を淹れてから、僕はひと口飲むとそう切り出した。もう次の満月まで時間がなかったし、秘密にするのは限界だと思った。 ウィルは何か言いたそうだったけれど、僕の強張った顔を見ると黙って頷いてやっぱりお茶をひと口飲んだ。何だかウィルの方がずっと緊張している気がして、僕はクスっと笑った。 「僕はそもそもこの国、いや、この世界の人間ではないんだ。僕はこことは全く違う文化の世界の学生だった。ある日街を歩いていると、目の前に大きな穴が空いていて、僕はそこに転がり落ちたんだ。僕は落ちながらやってしまったと思った。 きっと怪我をするだろうし、下手をすると命に関わるかもって。それくらい穴が深かった。僕の国では街角にそんな穴が空いてるなんて事は全く無いんだ。だから周囲の人の叫び声が聞こえたし、ほんと全然あり得ない事だった。 …でも僕は怪我などしなかった。だって気がつけば僕は馬として産まれるところだったんだから。僕の発する声はヒヒンだったし、産まれたての子馬だった。」 僕は呆然としているウィルにもっとお茶を飲む様に勧めると、自分ももうひと口飲んで話を続けた。 「馬になった僕は、馬生活を楽しんだ。だって他に何が出来る?ここの騎士団の馬になるまで、僕は只々毎日楽しく馬として暮らしていたんだよ。 もちろん馬になっても中身は僕のままだから、僕は人参が沢山食べられるって馬丁に聞いたその事だけで、選考会で副指揮官に気に入られる様に振る舞った。凄くちょろかった。ふふ。 そして僕は貴方に会った。フォルとしてね?僕は馬だったけれど、中身のハルマは目の前のウィリアムに恋をしたんだ。だから僕はあなたの命を救うために無茶もしてしまった。 ほんと怪物に追いかけられていたあの時は、僕も死ぬかと思ったけどね…。僕は馬としてずっとウィルの側に居られれば良かったんだ。でも、あの森の泉で目が覚めたら元の自分に戻っていたんだよ。僕本当にびっくりしたし、元に戻れて嬉しかった。 もっとも、騎士団のみんなも素っ裸の僕にびっくりしてたよね。ふふ、僕あの時、もし自分が馬のフォルだって話したら、いきなりバッサリ斬られると思ったんだ。 実際馬人間だなんて、僕の世界でもあり得ないし、多分この世界でも無いでしょ?僕ってほとんど魔物みたいじゃない?」 そう言って僕はウィルの目を見つめたんだ。
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