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ウィルsideハルの変幻
目の前の光景は予想していたとはいえ信じ難いものだった。恥ずかしげに裸になると、ハルは草地に立って満月を見上げた。すると月の光がハルを包むような気がしたと思ったら、一瞬の眩しさに目を閉じると目の前には月の光に照らされたフォルがいた。
分かっていたとはいえ、目の前でハルからフォルに変わる姿を見せられると開いた口が塞がらない。私はハッとして自分の首にかけたハルのネックレスを見た。すると片側の四つある凹みに、二つ埋まっていた黒い石がひとつ増えて三つになっていた。
私は少しモジモジして見えるフォルのところへ近寄ると、ぎゅっと首を抱えて鼻面を撫でた。
「本当にフォルなんだな、ハルは。信じてたけど、実際目にすると驚きを隠せないよ。ハルはフォルになっても綺麗だ。」
そう言ってハルの顔に口付けると嬉しそうにブルブルと鳴いた。そこへ指揮官と、副指揮官が早足で近づいて来た。実はハルが馬に変幻する時に、どうしても素っ裸になるから少し遠くで見ていてもらったんだ。そこは譲れなかった。
「フォルか!はぁ、本当に変幻するんだな。ははは、何だか、実際に見ると今までのことが笑えてくるよ。全くフォルには随分良いように転がされたな、私は。」
そう言って笑っているのは副指揮官だった。フォルは私の側にくっついて、ブルブルと嬉しげに答えてるみたいだ。指揮官は腕を組んで何を言って良いか分からないみたいだった。
「これからフォルの事はハルって呼ぶのか?」
口を開いたと思ったらこれだ。私は微笑んでフォルの首筋を撫でると指揮官に言った。
「ハルも言っていたように、馬の時の名前はフォルです。あまり皆に知られない方が良いと思いますし。それよりハルの事はよろしくお願いします。」
指揮官は頷いて言った。
「ああ、勿論だ。私の領地へ使いに出している事にした筈だな。ダミーの従者は実際に遣わせたから発覚することも無いだろう。」
フォルは指揮官に近づくと鼻を手に擦り付けた。ありがとうって事かな。でもあんまり私以外に懐いて欲しくないな。私の気持ちが出ていたのか、指揮官は私を見て笑った。
「ふっ、お前もあんまりフォルに執着するなよ。バレるぞ?さあ、明日からまたフォルを鍛え直さないとな?確か人間に戻るとしばらく馬の動きが悪くなるんじゃなかったかな?」
そんな指揮官の言葉にフォルが悲しげにいななくもんだから、私達は思わず満月の下笑いあったんだ。
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