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王子の視察
いつもより念入りにお手入れするロイさんに、僕はスリスリと顔を擦り付けて甘えた。
「ほい、フォル。まったくお前は副指揮官が連れて戻って来たと思ったら、相変わらずだな。迷い馬だなんて、お前のことだ、きっと上手く敵陣から逃げたんだろう。頑張ったな。
それはそうとほれ、準備させてくれ。今日は第二王子が騎士団の視察に来るからの。いつもより飾りも付けてお迎えしなけりゃならないんだ。」
そう言うと忙しそうに向こうへ行ってしまった。僕は馬丁見習いにたてがみの飾りをつけてもらいながら、さっきロイさんが言っていた事を考えた。
王子様が来る?僕がこの世界に来て初めて王族のことを聞いた気がする。まぁ、僕も狭い範囲でしか行動していないからだと思うけど、でも王子様?
僕はたてがみの飾りをつけ終わった馬丁見習いの少年に、スリスリし終えるとリーダーの所までポクポク近づいた。
『リーダー、今日王子様が来るって本当ですか?』
リーダーは水を桶からガブガブ飲みながら僕をチラッと見た。桶から水飛沫を上げながら顔を出すと、僕に言った。
『ああ、そうみたいだな。年に数回視察があるんだ。俺たちは隊列を組んで、ちょっと行進なんかして、まぁお披露目だな。王子って言っても子供だぞ?ま、お前みたいなもんだな?ハハハ。』
そう言って歯を剥き出して笑うと、ロイさんに呼ばれて行ってしまった。いつの間にか隣に来ていたビッツが僕に尋ねた。
『王子様って何?』
僕はビッツはまだ若い馬で知らないんだなと気がついて教えた。この国の一番偉い人間である王様の子供だってこと。その子供が今日騎士団の事を見に来るってこと。
するとビッツは不機嫌に首を縦に振って言った。
『だからこんなの付けられたのか。さっきから引っ張られて痛いんだよね。ちょっとフォル撫でてくれない?』
そう言って僕にたてがみのに飾られた青い房飾りを見せた。へぇ、これをさっき馬丁見習いが付けてたのか。結構カッコいいな。あ、ここかな。ちょっと皮膚が持ち上がってる。
僕はビッツの飾りを歯で噛んで、ちょっとだけ引っ張った。
『どう?もう痛くない?この飾りすごいカッコいいよ?』
ビッツは僕に顔を寄せて嬉しそうに言った。
『うん、もう大丈夫。ありがと。ふふ、かっこいい?自分じゃ見えないからなぁ。確かにフォルの飾りも綺麗だね。そっか、かっこいいのか。ふふふ、じゃあ良いや。』
すっかり機嫌良くなったビッツは単純で可愛いなと僕はクスクス笑って、馬丁たちが用意してくれた人参目指して、仲良く餌場へと歩き出した。
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