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僕は誰のもの?
第二王子の発言に僕は息を止めた。そして明らかに副指揮官も、ウィルも固まった。
「この黒馬、額に星があるだろう?私はずっとこの様な馬を探していたんだ。ようやく巡り合ったのだ。是非私に譲ってもらいたい。」
嬉しそうに私を撫でながら、そう言う王子に、僕は動揺して後ずさってしまった。すると王子は私をじっと見つめて言った。
「この馬、私の話が分かるみたいだ。お前、私のものにならないか?毎日りんごや特別なものを食べさせてやるぞ?」
僕は一瞬、え?毎日りんご⁉︎って思ったけれど、視界に入ったウィルの強張った顔を見て、ブルブルとまた後ずさった。そんな私と王子を呆然と見ていた副指揮官が我に返った様に言った。
「恐れながら殿下。この馬は騎士団の戦闘には欠かせない馬です。前回の隣国との戦でも非常に活躍した馬です。まだ若くこれから更に騎士団を支える馬であるのは明らかです。どうか召し上げるのはお許しください。」
わー褒められちゃった。僕はちょっとニマニマした気分で副指揮官に、いいぞ、もっと誉めて!とエールを送った。すると殿下は私に更に近づきながら、目を合わせて言った。
「…そうなのか。戦闘に欠かせない馬ならば、私が我儘を言ってはならぬな。…そうだ、だったらこの馬しばらく貸してくれぬか?ちょっと確かめたいことがあるのだ。それならば良いだろう?」
結局、副指揮官と殿下の護衛聖騎士たちとの話し合いで、10日間僕は殿下に貸し出される事になった。流石に殿下が譲歩したので、無碍に要求を断ることは出来なかったみたいだった。
ウィルは僕の手綱を聖騎士に渡す前に、僕を撫でて囁いた。
「必ず10日後に迎えに来る。だからあまり殿下になつかない様に。分かったかい?」
僕はいななきで返事をして、聖騎士に連れられて王宮内の聖騎士の馬場まで連れて行かれた。ここは美しい馬たちが悠々と草を食んでいて、確かに桶いっぱいのりんごも人参も用意されていた。
僕の登場で美しい馬たちは一斉に僕を見た。聖騎士は身なりの良い馬丁に手綱を渡すと、騎士団から殿下が少しの間借り受けている馬だから大事に扱う様にと話していた。
僕は、何だかこれからどうなってしまうのかと、いや、あの少年が何を考えて僕をウィルから借りたのか意図が分からずに不安を感じた。
馬丁は優しい声で僕を撫でると、騎士団の飾りを外して、馬場に入れると手綱を外してくれた。僕はさてこれからどうしたものかと遠巻きにしている馬たちを見回した。
すると一頭の美しい白馬が、僕のところへやってきて言った。
『君、騎士団の馬なんだって?ふふ、随分荒っぽいところから来たんだね?ここは美しさと賢さが全てだ。ま、お手並み拝見といこうか。』
ねぇ、ウィル。僕はちょっと場違いなところに来てしまったみたいだ。
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