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王子のストーキング
あの日以来、暇さえあれば王子は僕の元へ通ってきた。そして僕を撫でるふりをしながら、コソコソと僕に馬人間だと思った経緯を語ってくれた。
それは僕がブヒヒンと鼻息を荒くしてしまう様な驚くべき内容だった。そして、僕に必要な秘密が、そこに隠されている気がした。けれども、今は馬だからここに居るのも不思議はないけれど、ハルマとして王子の側に近づけるだろうか?
そんな事を思っていた矢先、その日王子は、僕に顔を近づけて言った。
「…フォルはもしかして、ハルマという騎士団の事務官ではないの?私の密偵が調べてくれたんだけれど、フォルはブランダム辺境伯の子息ウィリアムの馬でしょ。そしてハルマとウィリアムは特別な関係だね?
今現在ハルマはこの王都に居ない。平の事務官が指揮官の指示で王都の外に出されるのも変な話だ。パズルのピースは全てハルマが理由があって姿をくらましているとしか思えない、でしょ?」
僕は王子が平気で密偵を使っていると暴露した事もそうだし、推理力を酷使して事実に到達する頭の回転も凄いし、少年の姿をしているけれど、決して侮れない王族なのだとつくづく恐ろしくなった。
僕が思わずびびって後ずさったせいか、王子は無邪気に笑って言った。
「大丈夫。フォルを解剖したりはしないから。僕は自分が手に入れた秘密の書に書かれていた馬人間について、確かめたいだけだ。
でも本当だったなんて!僕の小さい頃からの夢が叶うよ。今度フォルから多分ハルマ?に変身するのは月の一番大きな夜、だね?僕も立ち合わせてもらう。いいよね?
…そっか、指揮官もグルなんだな?ふふふ、それは良い。あー俄然楽しくなってきたよ。こんなに楽しいのって、僕初めてかもしれないよ!フォル、ありがとう!」
そう言って、僕に抱きつく王子はいつもの物分かりの良さげな風ではなくて、心から楽しんでいるかの様だった。僕は王子も実は中学生ぐらいのいわゆる夢見るお年頃なんだと、妙な納得をして王子にされるがままにじっとしていた。
従者が王子に声を掛けると、王子は残念そうに僕の鼻の先を撫でて言った。
「じゃあ、また来るからね。僕ももう一度あの書物を読み込んでみるよ。」
僕は王子が立ち去る姿を見つめながら、呆然としていた。話は思わぬところへ転がって行ったんだ。まさか王子が僕の秘密が分かる書物を持っていたなんて。
その時、僕は馬場が妙な空気になっている事に全く気付けていなかった。そう、僕は気付いていなかった。美しくてプライドの高い、いけすかない馬たちの前で、王子様に非常に贔屓されている姿を見せつけてしまったってことを!
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