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リーダーの苦言
僕はトゲトゲしい空気をピリつく皮膚感覚で感じていた。振り返るのも怖いくらいだ。思わず愛想笑いを浮かべて振り返ったが、皆方向転換して群れを成して走り去ってしまった。…あら。
残り僅かの数日を、こんな状態で立ち去っても良いのだけど、今の僕は馬の習性が顔を出しているみたい…。何だか無性に心細い。あの群れの中にいる時のそこはかとない安心感が切実に欲しいんだ。
僕はこうなったらリーダーに直談判するしか無いと、キョロキョロと美しい白馬のリーダーを探した。リーダーはチラッと僕を見るとちょっと来いとでも言うように首を振った。
いや、実際呼んでる…。僕は恐る恐るリーダーの側に早足で近づいた。リーダーは僕を皆から離れたところへ連れて行くとおもむろに尋ねてきた。
『君さ、あ、フォルだったね?フォルは何か役目があって、ここに来ているんだろう?あの王子があれだけ楽しそうに話しているのは見たことがないからね。
私は皇太子の馬だけど、彼らは時々私たちに心の内を吐き出すことがあるんだよ。私もそうだけれど、重責というものは時として投げ出したくなるものだ。
第二王子が君の前であんな表情をするのは、見ていてホッとするけれど、まぁ他の馬が気に入らない気持ちも理解できるよ。良かったら、君の方から彼らに折れてくれないか?
彼らも決して意地が悪いわけじゃない。ちょっとヘソを曲げただけさ。』
そう美しいお顔で僕を見つめた。僕はリーダーに惚れ惚れしてしまった。さすがリーダーはリーダーたる資質を持っているんだなぁ。
僕も少しの間だからって、一頭づつ挨拶も無しに投げやりな態度だったかもしれない。僕は反省して、一頭づつ謝罪の旅に出た。僕は騎士団からちょっと用足しに来ているだけで、あなた方の領域を踏み荒そうとしたわけではないので、誤解しないでくださいと、馬場を駆け回った。
若い馬はけんもほろろだったけれど、成熟した馬はリーダーからの口添えもあったのか理解を示してくれた。
ところが時々僕を避けるふりをして体当たりをして来ていた一頭の栗毛だけが、全然聞く耳がなかったので、ちょっとした悪戯心で謝罪のフリをして追いかけ回した。
騎士団で鍛えられた僕に叶うはずもなく、栗毛のロビンはだらしなく荒い息を吐き出しながら僕に叫んだ。
『何だよ⁉︎分かったから!もう、追いかけてくるなって!』
僕はにっこり笑って柵のそばに追い詰められたロビンに言った。
『ロビン、僕は君のこと食べちゃいたいくらい仲良くしたいんだ。きっと僕、君のことは騎士団に行っても忘れないよ?』
僕はロビンの目が恐怖で潤むのを見てちょっとだけ気分が良くなったんだ。ふふ、僕が食べちゃうのはウィルだけだよ?君は可愛いけど、食べてあげない。
僕は慌てて逃げ出すロビンをニヤニヤ眺めながら、早くウィルに会いたいなと思ったんだ。
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