大人ですから

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大人ですから

結局、リーダーの取り計らいで和解した僕と聖騎士団の馬たちは、凄く仲良くなった訳じゃないけど、そこそこ仲間になった。あの僕を敵視してきたロビンは、僕に必要以上近づかない様に気をつけてるみたいだ。 もしかして僕が食べちゃうって話、真に受けてるのかな。ふふ。僕は彼らと一緒に行動するうちに、この全てにおいて恵まれている様に見えるエリート集団も、それはそれで悩みや葛藤があるんだと気づいた。 エリートは常に求められているものがレベチだからね。大変だよね。僕はワイルドな騎士団に買われて本当に良かったよ。…まぁ魔物狩りは未だに慣れないけど。どうも見た目と匂いがね…。 僕はエリートの芦毛のコボックに尋ねた。コボックは模様が一切ないグレーの美しい馬だ。…いや、ここの馬はどの馬も美馬だけどさ。 『コボックって、式典とか、王族を乗せたりとか、結構気が張る仕事が多いよね。他の仕事したいとか思うの?』 コボックは僕より一歳上のなかなか気の良い馬だった。 『そうだなぁ。私はここでの生活しか知らないけど、確かに子供時代の草原を自由に駆け回ったあの頃も懐かしく思うよ。フォルは騎士団の馬だろう?君はどんな経験をしたんだい?教えてくれる?』 僕はコボックに請われて、今までの経験を面白おかしく話した。森の魔物を至近距離で討ち取るためにぎりぎりまで近づく事とか。怪物の標的になって森の中を逃げ惑った事とか。 結局串刺しになった怪物が自滅してくれたおかげで命が助かったとか。手綱を取られて敵陣へ連れて行かれた事とか。追手に追われて夜の森に隠れた事とか。 いつの間にか周囲にエリート馬達が集まってきていて、僕の話を恐々と聞いていた。僕はギャラリーが多いことに気を良くして、臨場感を大事にするあまり、ちょっと本気を出してしまった。 僕が怪物の断末魔を実演すると、ロビンが急に嘶いて走り出した。すると皆も釣られたようにロビンの後を追って走り出してしまった。ついでに釣られて僕まで。何でだ。 僕が追いかけると、みんなが僕を恐怖に滲んだ目で見ながらスピードを上げるのが後から考えると笑えるけど、その時の僕はすっかり馬の習性に操られていて必死に追いかけてしまった。 馬丁達が僕たちの剣幕に慌てて僕たちを落ち着かせようと頑張り出したのにハッと気づいて、追いかけるのをやめたら、ようやくエリートくん達も走るのをやめた。 後で綺麗な顔を顰めたリーダーに、僕が叱られたのは解せない。コボックが僕に頼んだんですよ?話してくれって!
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