明日は満月

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明日は満月

結局騎士団に戻ってゆっくりする暇もなく、あっという間に満月の夜は近づいてきた。明日は第二王子の前で僕は人間に変幻する事になる。僕は少し神経質になっていたのかもしれない。 馬場を馬鹿みたいに走り回っていた僕は、ウィルが来たことにも気づかなかった。馬丁に指笛で呼ばれてようやくウィルの存在に気づいたほどだ。いつもならすぐに気づくのに…。 身体の痺れる様な、あの独特な感じが時々襲ってくるので、僕はウィルの側に行くのも躊躇いがあった。でもウィルがいつものように優しい笑顔で僕を呼ぶので、僕はゆっくり近づいた。 「フォル、何だか落ち着かないのか?いよいよ明日は満月だ。今回は王子も一緒だけど、この前の時と同様に遠くで見ててもらう事にするよ。まだ少年とは言え、フォルのあられも無い姿を見せたくは無いからね。 あと、もしかしたら王子以外の者も数人は居るかもしれない。聞いてないが、夜中に王子が単独行動は無理だからね。私は、フォルからハルに変幻するのは初めて見るから、ちょっと楽しみなんだ。 ハルからフォルの変幻の時も思ったけれど、あれはとても神秘的な感じだ。神々しいというか…。だから不安は一切要らないよ?」 そう言って僕をゆっくり撫でてくれた。僕はさっきまで気が立っていたのが嘘のように落ち着いて、何ならウィルとイチャつける人間に戻れるのが楽しみなくらいだった。 王族に見つかって、謎は解きたいけれど、実験動物扱いされないかと不安を感じていたのも本当だったから。でもよく考えたら、ちゃんと騎士団にもどしてくれたし、拘束されてるわけじゃ無い。 あの王子が狂信的なタイプじゃ無いってマジ祈ろう。この世界の絶対的な権力者は王族なのだから、僕が不安に感じたのも無理なかった。いや、考えようによっては、いっそ元の世界の方が研究のモルモットにされたかもしれない。 僕は自分の状況の良い面だけを見ようと、カッコいいウィルをじっと見つめた。いつもは険しい顔も、僕の前では優しい。柔らかく微笑んで、あの森の泉のような美しい緑色の瞳を僕に投げかけてくれる。 僕は急に早く明日になって、ウィルに抱きつきたいと思った。僕の機嫌が良くなったのが分かったのか、ウィルはクスっと笑ってもう一度僕の首筋を撫でて言った。 「…フォル、僕もハルに会いたくてたまらないんだ。早く君と甘い口づけがしたい。」 そう言って僕の額の星にキスしたんだ。
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