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第二王子side秘密の書
私はこの国の第二王子、アンドレ。私は昔から兄の皇太子のスペアである事を良いことに、自分の好きな事に時間を割いてきた。そんな私が一年前の王族の倉庫をひっくり返して見つけたのがこれだ。
私は手元の皮の手帳をそっと撫でた。これは古い蔵書の奥にまるで隠す様に置かれていた。激しい戦闘で若くして亡くなった、前王の王弟のサインが書かれているこの日記の様な古い手帳には題名が書かれていた。
『秘密の書』と書かれたその皮の手帳を、私は服の下に入れてそっと自室へ持ち帰った。何となく他人に見つかっては不味い気がしたのだ。
私は直ぐにそこに綴られていた日記の内容に夢中になった。そこには王国に伝わる物語よりも生々しくも、不可思議な事が書かれていたからだ。
『私が出会った黒い美しい馬は、きっと人生で二度と会えない素晴らしい馬だ。今回の戦闘でも、素晴らしい働きをした。彼と一緒なら負ける気がしない。』
『彼の名前はミハルというらしい。満月の光に照らされて人間に変幻した時は度肝を抜かれたが、彼は…美しかった。』
『彼の生きていた世界とここは、あまりにも違うようだ。彼が戸惑っている様子が可愛い。』
『私は彼に馬の蹄鉄のネックレスをあげた。彼は悪戯っぽく馬のいななきの真似をした。ほんと可愛い。』
『私は彼に恋をした。彼が気持ちに応えてくれるといいのだが。』
『彼はまた馬に変幻してしまった。やっぱり満月で変身するみたいだ。額の星の様な模様が以前より銀色の毛になっている。…彼を戦闘に連れて行きたくない。』
『彼が私を庇って怪我をしてしまった。彼を失いたくない。』
『明日は満月だ。今度こそ彼に愛を伝えるつもりだ。』
私はそこから暫く続く王弟の『可愛い』ミハルについての記述を読み飛ばした。もう何度も読んでいるので、さすがに胸焼けがする。王弟はミハルと愛し合うようになったけれど、ミハルは満月になる度に馬に変わってしまう。
ミハル曰くは、ミハルが馬に変幻する理由は呪いにあるという。時々一族の選ばれた者が、この世界で馬と人間の変幻を繰り返すのだそうだ。4回変幻が終わると元の世界に戻るらしい。
『ミハルが元の世界に帰ると言う。戦争で家族が困っているはずだと。私は引き止めたいが、彼も責務を負っているのが分かるから、無理強いは出来ないし、留めおく方法も私たちには分からない。』
『ミハルが私に言った。もし今度自分の一族の者がこの世界に紛れ込んだ時は、自分のようにここに残りたくなった時に、そう出来るようにこのネックレスに細工をするつもりだと。』
『可愛いミハルは私の心を掴んだまま消えてしまった。私はもう、どうやって生きていったら良いか分からない。』
『明日は厳しい戦闘だ。ミハルと共に戦えないのは残念だが、王のために、兄のために私の使命を全うするだけだ。』
日記はミハルが消えてからは途切れ途切れだったけれど、戦闘の後は真っ白だった。私はそっと手帳を閉じた。明日のフォルの変幻が楽しみな一方で、王弟の気持ちが分かるかもしれないと胸がザワザワしたんだ。
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