命懸けの賭け

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命懸けの賭け

ごめん、ウィリアム。 僕は振り落とされて呆然と僕を見上げるウィリアムに謝ると、目の前のサイもどきに対峙した。もし、このサイもどきモンスターが元の世界のサイに近ければ、騎士といえども逃げるより他に、倒すことが出来ないのは明白だった。 実際、剣が刺さらなかった。しかも突然の襲撃で、幾人かの騎士や、馬達が怪我をしたみたいだ。僕は大声でいななくとモンスターに言った。 『お前は馬鹿、アホ、マヌケ!』 するとモンスターの小さな目が、途端に恐ろしい殺気を帯びた。僕は命の危険を感じて、踵を返すと森の奥へ向かって走った。時々僕の後を追いかけてくるモンスターを確認しながら、ひたすら走った。 僕の名を呼ぶウィリアムの叫び声が聞こえた気がするけれど、みんなを助けるために僕が出来る事はこれしか思いつかなかったんだ。 僕の直ぐ後ろを、バキバキと嫌な衝撃音を立てながら追いかけてくる、怒り狂ったモンスターの的となって、僕はひたすら逃げた。僕は進行の妨げになりそうな大きな木の側をすり抜けて、巨大なモンスターが上手く進めない様な進路を取った。 どれくらい走ったのか、僕の喉からは血の味がしたし、脚は枝や岩がぶつかって切り傷だらけだった。僕は後ろから近づいてくる微かな気配を感じながらも、立ち止まってしまった。 もはや限界…。僕はフラフラと大きな木に寄り掛かると、必死で息を吸いながら後方を注意深く眺めた。少し離れた場所で、あのモンスターらしき雄叫びが聞こえる。でも、何だかその声は…。 僕は戻ってはダメだと思いながらも最後の顛末を知りたくて、ソロソロと注意深く近づいた。その頃にはモンスターの声は微かな呻き声に変わっていて、僕は大きな木の横枝に串刺しになっているモンスターの最期を見ることになった。 僕は気づかなかったけれど、僕がくぐり抜けた大きな木には飛び出た枝があった。モンスターはがむしゃらに走ってきて、自らその恐ろしい枝に顔から飛び込んだんだ。 血だらけでこと切れたモンスターの周囲を歩き回りながら、僕は自分も運が悪ければこうなって居たんだとゾッとした。 僕はモンスターから命が助かった事にホッとして、急に喉の乾きに我慢できなくなった。首を掲げて周囲を見渡すと、微かに水辺の匂いがした。僕は水の事しか考えられなくて、いそいそと其方へと向かった。 目の前に美しい泉が湧いていて、僕はウキウキと美味そうな透き通った水を飲んだ。喉にしみ通る水は、身体の奥から力を溢れ出す様だった。マジか、これこそ命の水だなぁ。 僕は自分が人間に戻れたら、この綺麗な水で汚らしい魔物の血で汚れた身体をすっきりと洗い落とせるのにと、残念な気持ちで水の煌めきを眺めた。 すると煌めきが急に大きくなる感覚がしたと思ったら、僕はドサリと地面に倒れ込んでいた。薄れる意識の中で、僕は柔らかな草の感触を顔に感じていた。
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