僕は馬人間

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僕は馬人間

僕はボンヤリとウトウトしながら夜を過ごした。元々馬というのは人間の様にぐっすり眠る訳じゃないから、ウトウトというのはいつもの様にということなんだけどね。 涼しい朝の風が吹き出して、丁度砦の方角に朝日が昇り始めそうだった。僕は人間の時はこの時間はベッドタイムだったので、久しぶりの朝焼けを楽しもうと紫や赤、オレンジと美しいグラデーションを眺めていた。 するとあのゾワゾワした感じが襲ってきて、僕はビッツにヤバいと叫びながら、厩舎へと走り込んだ。厩舎で休んでいた先輩たちが何事かと騒がしく喚き立てたけれど、僕はそれどころじゃなかった。 丁度朝日が昇ったんだろう。僕は先輩馬たちの驚愕の眼差しを横目で見ながら、スルスルとハルマに戻ったんだ。素っ裸の僕は、流石に馬達とはいえ、先輩たちなので気恥ずかしく思って言った。 『…へへ、どうもお騒がせしてすみません…。』 途端に厩舎は阿鼻叫喚の凄まじい騒ぎになって、先輩馬達はいななきながら我先へと馬場に走り出して行ってしまった。僕はポツンと一人取り残されてしまって呆然としていたけれど、騒ぎを聞きつけた馬丁見習いと、ロイさんが素っ裸の僕を見て口をポカンと開けていた。 先に我に返ったロイさんは、指揮官にでも僕の話を聞いていたんだろう、直ぐに冷静になって手元にあった馬用の保温カバーを僕に渡した。 僕は馬臭いそれを有難いような、有り難くないような気分で腰に巻き付けると、夜番の馬丁見習いにウィルから預かった服を持ってきてくれる様に頼んだんだ。 僕が服を着替えると、僕は詳しくは後で話をするからとロイさんに断ると、ウィルの官舎へと急いだ。まだ朝早くて寝静まった官舎は僕の足音が妙に響いた。 僕がウィルの部屋に近づくと、扉がバンと開いて寝不足な顔をしたウィルが僕を部屋に迎え入れてくれた。 「ハル!良かった…。ちゃんと人間に戻ったんだね?」 僕はウィルにぎゅっと抱きつくと、逞しい胸に頬を擦り付けて言った。 「良かった…!僕どうなるのかと、心配で生きた心地がしなかったんだ。僕きっと、満月を見ると馬になっちゃう人間になったんじゃないかな。朝日が昇るのと同時に人間に戻ったけどね。」 僕の話にウィルは目を丸くして驚いていたけれど、安心した様に言った。 「そもそも、ハルは異世界の人間で、人間になったり、馬になったりしていただろう?だから今更、満月を見ると馬に一晩だけ変身すると言われても、何だか大したことじゃない様に思ってしまうね。 よく考えるとあり得ない話なのに。ふふ、馬人間を恋人に持つなんて世界中で私だけだろうね?」 そう言って僕の唇に優しい口づけをしたんだ。
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