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僕は馬丁のお気に入り
「お前は本当に聞き分けが良い奴だな。」
そう言いながら、ニールさんは僕を撫でてくれた。僕はニールさんの巧みな指使いで撫でられるのが凄い気持ち良くて好きなんだ。だからもっと撫でて欲しくて、鼻先をニールさんの手のひらに押し付けた。
「ニールさん、この馬ってすごく慣れてますよね。俺、この牧場でこいつが一番好きですよ。」
そう言って、僕に近づいてきたのはキリルさんだ。キリルさんはいつも僕に人参をこっそり余計にくれるから、大好きなんだ。僕はこんにちわって軽くいな鳴くと、キリルさんへと近づいた。
「今日もご機嫌は良さそうだな。ハハハ、そんなに押すなよ。いくらお前が子馬だからって、俺より体重は何倍も重いんだからな?」
まーね。僕はまだ生まれて三ヶ月程だけど、そこそこ大きくなったよ。ていうかびっくりするほど成長が速くて、我ながらそれに心がついていけないんだよね。
中身がいくら人間の大学生だって、身体に引っ張られてちょっと気が短くなっちゃうしね。でも、他の馬たちは結構なバブちゃんだから、ちょっと話が合わないんだよ。
まぁみんなの面倒は見てるけどさ。なかなかやんちゃな子馬ばっかりだから、すっかり保父さん気分だよ。僕がそんな事を考えてると、キリルさんが僕の目を覗き込んで言った。
「ニールさん、俺時々、こいつは俺たちの言ってる事、全部よく分かってるんじゃないかなって思う時があるんですよね。しかもこいつって、滅多にないほど綺麗な馬でしょ?
真っ黒で額のところに星の様に白い模様が入ってて。身体つきも完璧だし。あと三ヶ月もしたら、生後半年の新馬の選考会ですよね。
沢山の買い手が来るだろうけど、きっとこいつ人気者になりますよ。しかも値段も相当良いでしょ。楽しみですよね。」
ニールさんは僕の背中を確認する様に撫でるとキリルさんに言った。
「そうだな。この牧場始まって以来の高値がつきそうだ。俺としては、こいつを大事にしてくれるピッタリの相手に売りたいけどなぁ。お前もしっかり餌食べて運動して、かっこいい馬になるんだぞ?」
かっこいい馬?そーだなぁ、僕の額にそんなカッコいい模様があるんなら、それに相応しいお馬さん目指して頑張るよ、ニールさん。僕はそう思って高らかにいな鳴いた。
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