僕の馬生活

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僕の馬生活

夕方になって、僕たち子馬は屋根付きの特別な寝床に集められた。もうご飯も終わったし、水も飲んだし、眠るだけだ。僕がいつもの場所でしゃがみ込むと、隣に栗毛の子馬がやってきて、僕の身体に鼻先を押し付けた。 『なぁに?もう寝なきゃだめだよ?』 栗毛の栗ちゃんはもう一度僕に甘える様に鼻先を押しつけると言った。 『黒ちゃん、僕、今日ね、白ちゃんに噛まれそうになったんだよ?白ちゃん嫌な奴。黒ちゃん怒って?』 僕は、はにわ目になりながら言った。 『栗ちゃん、また白ちゃんに意地悪したんじゃないの?白ちゃんが好きだったら優しくしてあげないと。明日ごめんねしよう、ね?一緒に謝ってあげるからさ。』 栗ちゃんはぶつぶつ言ってたけど、最後は本当に一緒に謝ってくれる?って僕に言いながら、いつの前にか隣で眠ってしまった。 僕はキリルさんが作ってくれたふわふわの寝床に横たわって、夜の生き物たちが立てる音を聞きながら乾いた清潔なワラの良い匂いを楽しんだ。 さしずめ僕が人間なら、この状況はアルプスの少女ハイジがペーターと寝転んだ小屋のワンシーンだなと思いながら。ま、今は人間じゃないけどね。 前世があるなら、僕は大学二年生だった。大学生活を満喫していて、バイトもして、後は彼氏でも出来ればパーフェクトだった。そう、僕は恋愛対象が男だったから、それは一番ハードルが高かったけどね。 ゲイにありがちな、ファッションにうるさく、身だしなみには気を遣っていた。見た目は悪くなかったから、お陰で女子からは何度もお誘いや告白があったけれど、残念ながら僕はお友達以上にはなれない。 イケメンが誘ってくれないかなと、あの日もそんな事を考えながら慣れた街角を曲がったんだ。そしたら足元の地面がポッカリ空いていて、僕は吸い込まれる様に落ちた。周囲にいた人達の悲鳴が聞こえたよ。 僕自身は声も出なくて、次に襲い掛かる衝撃を覚悟して身体を丸めたんだ。でも突然グイッと大きな力に引っ張られた。次の瞬間には、びっくりする事に僕はふんわりとした場所に落ちた。しかも温かくて、布団の中みたいだった。 でも周囲を見回そうにも身動きは取れないし、目も開かない。何なら身体をぎゅっと規則的に押されて苦しいし。しばらくそれが続いたと思ったら、手の先に光を感じて、それから急にグイって引っ張られたんだ。 相変わらず目が開かなかったし、よく聞こえなかったけど、身体中を乱暴にゴシゴシって擦られてびっくりしたんだ。目が開く様になったら、目の前でガタイの良い外国人が僕の身体をあちこち調べていた。 僕は何⁉︎って言った筈なのに、僕から出たのは弱々しいヒンだった…。そーなんだよね、僕は、穴落ちからぁの、馬に生まれ変わり!みたいなんだ。何言ってるのかって?本当、自分でも何言ってんだって感じだよね?
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