謎めいた夢見

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謎めいた夢見

僕は大学生活を楽しんでいた。同級生たちとたわいのない会話をして、家に帰れば口煩い妹が僕の服を勝手に着ている。僕が文句を言うと、お兄ちゃんのセンスが良いから着たくなるのだと、上手いことを言って僕を黙らせる。 僕は肩をすくめて首元のネックレスを触りながら、言った。 『なぁ、ミサはおじいちゃんの形見、何かもらったのか?』 すると妹は首を振って答えた。 『ううん。おばあちゃんが言ってたけど、そのおじいちゃんの形見のネックレスは、清水家の春の文字のつく男子に受け継がれるものだって聞いたよ。狡いよね。だから、お父さんじゃなくて春兄がもらったんだよ。 …その形見って実は凄い話があってね、そのて…』 …なに?聞こえない。 不意に僕は覚醒して、夢を見ていたのだと気がついた。生々しい現実味のある夢はあっという間に朧げになってしまって、僕は慌てて夢の記憶を手繰り寄せた。 なぜこんな夢を見たんだろう。僕は首のチェーンを引っ張り出して、チャームをマジマジと見つめた。 2cmほどの少し黒ずんだ馬の蹄鉄のチャームは、多分銀で出来ていると思う。僕はアクセサリーはこれしか持っていなかった。革のブレスレットは使ってた事もあったけれど、結局これだけになった。 チャームの裏にも特に何か刻んであるわけでも無かった。ふと蹄鉄の横に刻まれた何かを見つけた。それは浮き出る丸と沈む丸とでも言うような、凹凸のある丸が二つ並んでいた。 そして、飛び出した丸の隣には星の様な刻みがあった。一方、凹んだ丸の隣には何も無かった。僕は首を傾げて、このネックレスに、この僕の身に起きた事への説明を見つけるのには無理があるかと、苦笑したんだ。 僕は現実に会話したわけでもない、夢の中での妹とのやり取りをすっかり意味づけて考えてしまっていた。自分でも馬鹿らしいとは思ったが、僕は何となくこのネックレスを身につける事で、馬になってしまう気がした。 そこで、部屋の窓の枠の隙間にそっとネックレスを押し込んだ。ここなら誰にも見つからずに、失くす事もないだろう。 万が一馬になってしまった時に、身につけていたら失くしてしまいそうだったし、反対に身につけていても馬になってしまうかもしれないと思い始めていた。僕はその両方を避けたかった。 矛盾してる様だけど、何ひとつハッキリと分かることなど無かったんだ。僕は人間から突然馬に生まれ変わって、そしてまた突然人間に変化した。この見知らぬ世界で。それが唯一の現実だった。
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