王都の街へご主人様とデート

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王都の街へご主人様とデート

「さぁ着いた。ここだよ、ハルマ。」 ウィリアムに連れられて、今日は王都の仕立て屋に来ていた。サイズの合う騎士団の事務方の制服を作るためだ。騎士たちの制服は白地に紺のモールで縁取られているカッコいいものだ。 一方事務方の制服は濃いめのエメラルドグリーンの生地に黒のモールで縁取られている。僕はこっちもカッコいいと思う。黒がグッとニュアンスのある緑色を引き立てているからだ。 階級が上がっていくと肩の房飾りが金や銀になっていく。そんなところは分かり易いな。ちなみに僕は黒。下っ端はモールと同色なんだ。それでも十分かっこいいけどね。 ファッションにうるさい僕としてはこんな洒落た制服を着るのも気分が爆上がりで、我ながら単純だなと思う。ちょっとしたコスプレぽくってウキウキしてきた。 そもそもここの生活が、僕にとってはまったく現実味が無いんだよね。でも僕は今、仕立て屋の職人さんにサイズを測ってもらって、オーダーを受けてもらっている。 着々と地に足をつける準備をしてるんだ。それが僕には何だか馬になって生活していた時よりも不思議な気がした。多分、馬生活だと、そんなに色々考えるシチュエーションが無かったんだと思う。 だって、僕の関心といえば、どれだけ人参が食べられるかとか、走り回れて楽しい~とか、訓練何だろうとか…。うん、馬鹿みたいに単純な生活だね。それはそれで幸せな気がする…。 ウィリアムは僕を待っている間、手持ち無沙汰に飾ってある私服のベストやシャツを手に取って眺めていた。僕はウィリアムに尋ねた。 「ウィリアムさん、騎士団に居て私服を着る機会はありますか?僕も用意しておいた方が良いんでしょうか。」 ウィリアムは僕をチラリと見て考え考え言った。 「機会が有ると言えばある。例えば騎士団員だと知られたくない内密な外出の時や、こうやって王都に遊びに来る時とかな。制服は目立つから。」 僕はウィリアムの白い制服姿を見つめて言った。 「僕はウィリアムさんの制服姿好きです。とっても似合ってて、カッコいいです。」 ウィリアムはちょっとフリーズしていたけれど、頭を掻いてぶつぶつ何か呟いていた。照れているのかな。そんなウィリアムも僕の胸をキュンとさせるけどね。 それからウィリアムは何点か服をいくつか僕用に見繕うと、オーダーしてくれた。制服の仕上がりと一緒に出来上がるみたいだ。 僕はまだお給料ももらっていないし、ウィリアムに買ってもらうのは気が引けた。そこはやっぱり日本人気質が出てしまった。するとウィリアムは微笑んで言った。 「…ハルマは不思議だね。普通はそんな事気にもしない人間ばかりだよ。ふふ、心配しなくても私はお金がない訳じゃないから受け取ってくれ。 私も自分が誰かに服をあげるなんて、初めてなんだ。…だから断ってほしくないな。」 そう言って僕を見つめる緑色の瞳に、僕は身動き出来なかったんだ。
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