押し倒すのは僕

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押し倒すのは僕

「他に見たいところはあるかい?」 ウィリアムがそう言って僕を振り返って見た。僕はさっきからドキドキと破裂しそうな心臓を感じながらウィリアムを見上げた。ウィリアムはそんな僕を見ると、少し狼狽えたように視線を彷徨わせた。 「ウィリアムさん、僕疲れちゃいました。何処かで休憩したいです。…二人きりで。」 僕は何処かの恋愛マニュアルに載っていそうな、分かりやすい手法で勝負を掛けてみた。ウィリアムはしばらく黙りこくっていた。絶対僕が誘ってるのは分かったはずだよね?騎士団は男色多いんだよね? おもむろに僕の腕を掴んで、ウィリアムは歩き始めた。そして近くの路地に入って行った。そこは僕でもわかる連れ込み宿のエリアで、道にはイチャイチャしたカップルがチラホラ見えた。 その中で、上品な構えの宿の中に入ると、ウィリアムはカウンターで鍵をもらって僕たちは薄暗い階段を登った。廊下を進んだ先の扉を鍵で開けると、ウィリアムは部屋に入った。 僕もずっと腕を掴まれていたので、一緒にご入場だ。ウィリアムは内鍵を掛けると、僕に向き直って言った。 「…ハルマは随分積極的なんだね?慣れてるの?」 その時のウィリアムは少し強張った顔で、でも瞳は僕を見据えてギラついていた。僕はテンパっていて、ウィリアムに何を聞かれているのか聞いて居なかった。 僕はただウィリアムとの機会を失いたくなくて、シャツのボタンを見せつけるようにひとつづつ外して見せた。 「僕は、ウィリアムさんとしたい…。」 ウィリアムは少し毒づいて僕の手を掴むと、グイッと引き寄せて僕に口づけた。少し荒々しい口づけは紛れもない僕のファーストキスだった。僕が大好きな相手とキスした事に舞い上がる暇もなく、僕は次々に新しい階段を踏み続けた。 荒々しい口づけは直ぐに優しいものに変わって、ウィリアムは僕をそっと抱き寄せた。僕が恐る恐るウィリアムの背中に手を伸ばして抱きしめ返すと、ウィリアムは僕の顔を覗き込んで囁いた。 「…ハルマは大胆に誘って来るのに、反応がウブなんだね。私もどうして良いか分からなくなったよ。」 そう言うウィリアムに思い直して欲しくなくて、僕は強請るようにウィリアムを見上げて言った。 「やめないで…。」 するとウィリアムは苦笑して、僕にそっと唇を合わせた後言ったんだ。 「やめないさ。やめられるわけが無い…。」
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