馬の皮をかぶった大学生ですが、なにか？

予感と準備

ため息はブヒヒンと馬らしい、いななきに変わってしまった。僕は久し振りの馬の姿に戸惑っている。あの慣れ親しんだ全身がバネの様になった気分には、まだなれない。

それよりもだ。今の僕はここからどう誤魔化して騎士団に戻るのか、それが問題だ。僕は蹄に変わってしまった自分の足を見つめると、もう一度ため息をついた。全ての言語がいななきになる、この身体。はぁ。

ウィルにあのネックレスを渡した、あの夜の心の騒めきは、この事を無意識に感じていたのかもしれない。

動物は第六感的アンテナが敏感だ。友人の家の黒猫が、遊びに行く度に僕の後ろをじっと見つめて唸っていた懐かしくも悲しい思い出。今考えれば、あのピンと来てしまうやつだ。

僕は人間だったけれど、馬になって、人間になった。言うなれば、もはや生粋の人間ではなく、馬人間だ。だから何かザワザワして居ても立っても居られなかったのも、動物的察知能力のアンテナが普通の人間より太く長くなったんだろう。

いや、今は起きてしまったことの検証ではなくて、上手く騎士団に紛れ込む方法を考えなくては。僕は周囲を見回した。ここは僕が馬時代にロイさんや仲間たちとお散歩に、川まで出掛けた時に見つけた隠れ家の様な小屋の前だ。

最近の僕は変だった。無性に人参が食べたくなったり、突発的に走り出したくなったり。僕は馬に戻る日が近づいている気がした。日に日に、耳は音を良く拾い出した。

僕は焦る気持ちを抱えて、馬になった時に備えて準備をしたんだ。数日前に午後休みを取って、小屋へやって来た。着替えの予備を隠して、緊急事態に備えた。

僕はあの泉で人間になった時が、夜だった事を思い出していた。水を飲んで力尽きたのだけれど、朝目覚めたら人間になっていたんだ。僕はベッドの上でいつ馬に変わってしまうかと毎晩ドキドキする羽目になった。

でもそれは突然起きた。その日はゾクゾクする様な震えが時々襲って来た。僕は焦って体調不良だと経理部のリーダーに訴えて休みを貰うと、部屋で制服をクローゼットに脱いでしまい込んだ。

僕はそのエメラルドグリーンの制服にもう一度袖を通す事を願いつつ、私服に着替えるとまだ就業時間中でひと気のない宿舎をそっと出た。机の上には、何と書いていいか分からなかったけれど、ウィル宛に手紙を残して来た。

僕はあの森の小屋まで、ひと目を気にしながら急いだ。ひとの足で行くには1時間以上は掛かるだろう。裏から出たその先の普段行かない店で軽食を買うと、僕はフードを深く引っ張って黙々と歩き始めた。

汗ばんだ僕がたどり着いたのは、コツコツと木々で更にカモフラージュした小屋だった。存在を知らない人間が見つけることは難しいだろうと思われた。僕は周囲に誰もいない事を確認すると軋むドアを開けて小屋の中に入った。

ウィル、僕がフォルになっても側にいるのは変わらないよ。