ウィリアムsideフォルの帰還

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ウィリアムsideフォルの帰還

私がハルマの部屋で呆然と立ち尽くしていると、慌ただしい足音がバタバタと廊下を響かせて、私を呼ぶ声が聞こえた。私がハッと気を取り直して扉をあけると、そこには呆れ顔のケインがいた。 「やっぱり、ここだと思ったぞ。あれ?ハルマは一緒じゃないのか?おい、その分だと知らないな?フォルだ。フォルが戻ってきたぞ!」 私はケインの弾ける様な笑顔に背中を押されて、胸のポケットに手紙を押し込むと急いで厩舎へ向かった。そこには、何人かの騎士たちがフォルを撫でて声を掛けていた。 「おい、フォル帰ってきたぞ。良かったな、ウィリアム。」 そう声を掛けられて、私は久しぶりのフォルの元へ近づいた。こちらをじっと見つめるフォルの黒い瞳はどこか懐かしくて、私はハルが失踪したばかりだと言うのに、口元には微笑みを浮かべていた。 「フォル!よく帰って来たな。まったくどこに居たんだ?心配したんだぞ。」 そう言うと、フォルは私に甘える様に手に顔を寄せてきた。私がしばらく撫でてやると、小さくいなないた。フォルの身体は相変わらず艶々で、居なかった間も何処かで大事にされていたのでは無いかと思われた。 私は踵を返すと、もう一枚の手紙を資金部のリーダーに渡すべく厩舎を離れた。ふと、フォルのいななきが聞こえた気がして振り返ると、フォルは一頭の栗毛と一緒に馬場を駆けていた。 その美しくも楽しげな様子に少し癒された私は、ハルの帰りを待とうと思った。手紙には必ず帰ると書いてあったじゃないか。何か事情があったのだ。 私に言ってくれなかったのは寂しいけれど、私だから言えなかったのかもしれない。資金部のリーダーに手紙を渡すと、彼はひどく驚いた様子だったけれど、急な故郷からの呼び出しという事で納得したらしかった。 「本当に急な話だったのだな。とりあえずハルの考えたやり方で資金部を回す事は出来そうだ。この貢献度を考えると、クビにも出来ないだろうな。まぁ、休職という形で籍を残しておこう。連絡してくれてありがとう。」 そう言って苦笑するリーダーの顔を見ると、ハルが資金部で随分重宝されていたのだと分かった。そう、あの泉で素っ裸で私たちを仰天させた青年ハルマは、考えれば短い時間なのに、騎士団に多くの痕跡を残していった。 特に私にとっては、代わりのない存在として。早く戻ってこいよ、ハル。
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