ウィリアムside戦の予兆

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ウィリアムside戦の予兆

「ヤバい状況なのか?」 少し強張った顔でケインが私に尋ねた。辺境伯である父からの書簡で、国境付近の不穏な情勢は聞いていた。私は頷いて言った。 「ああ、近々騎士団も国境へ出立することになりそうだ。父上曰く、小規模な小競り合いはここ暫く頻発していた様だが、どうも様子見で、敵勢が集結し始めていると隠密調査の結果報告があったんだ。 王との協議も終わって、今日明日にも騎士団長から話がありそうだ。誰が行くかは分からないが…。」 ケインは小さくため息をついて言った。 「そっか。魔物退治でも危険と言えばそうだが、人同士の戦は正直言って怖いぜ。ウィリアムは人を切れるか?」 私はかつての、思い出したくも無い記憶を不意に呼び起こされた。私は苦笑して答えた。 「私は辺境の生まれだからな。小さい頃から、隣国との国境付近での小競り合いはよくある事だった。だけれど、あの8年前のケルビンの戦いで、私の領地から大勢の騎士達や従者達が戦へ赴いたんだ。 皮一枚でわが国の勝利となったけれど、あの時は可愛がってくれた騎士が何人も亡くなってしまった。運ばれてきた兵士の中には手足が無いものも居た。 戦はやっぱり殺し合いなんだよ。こちらが躊躇していたら、血飛沫をあげるのは自分だ。私は15、6歳だったけれど、あの1年間それを目の当たりにしたよ。」 そう言う私に、ケインも頷いて言った。 「そうだな。やらなければ、やられる。私の叔父もあの戦で命を落とした。優しい叔父だったが、戦になったらそんなものは関係ないから…。 しかし、どれくらいの規模で騎士団行軍するのかな。それに兵士も合わせるとかなりの数になりそうだけど。とりあえず、ウィリアムは選ばれるだろ。良かったな、フォルが戻ってきてくれて。 あいつと一緒なら心強いだろ?」 そう言って、他の騎士に呼ばれて去っていくケインの後ろ姿を見つめながら、私はため息をついた。 フォルが一緒なのは実際心強い。でも一方で、なぜか戦には連れて行きたくないとも思ってしまう。あんなに賢くて可愛い馬を、戦で危険に晒すのは可哀想な気がしたんだ。 だが、一方でフォルは私と戦地へ行きたがりそうな気もした。私を守るためにあの怪物を上手く倒したフォルは、私を一人で戦へと行かせない気がしたと言うか…。変だよな、馬なのに。 私は急にフォルに会いたくなって、厩舎へ足を向けた。この落ち着かない気持ちをフォルに会って癒されたかったんだ。
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