人間てチョロいね

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人間てチョロいね

僕の目の前に立ったそのうちの一人が、僕をじっと見つめてきた。僕はジロジロとその相手を見返してやった。その人は背が高くてガッチリとした体格の、いかにも強そうな白いマントを着た騎士っぽい人だった。 いかつ過ぎて僕の好みじゃないけど、まぁこんな漢になりたいって、普通の男の子たちが憧れそうな感じだ。その騎士は隣のこちらは従者?いや、馬の匂いがするから、馬丁さんらしき人物に話しかけた。 「ロイ、この馬凄くないか?月齢の割に、落ち着きっぷりが見たことがないくらいだ。しかもさっき走るのを見たが、無駄のない動きで指示にもきっちり従っていた。 賢い馬なんだろうな。後は人に慣れてるかどうかだが…。気性が荒いんじゃ困るからな。」 ふーん、そっか。じゃあせいぜい愛想良く振る舞ってやろうかな?そう思ってる僕の目の前に、匂いを嗅がせる様に手のひらを見せてきたのはロイと呼ばれた初老の男だった。 「副指揮官、この馬は稀に見る美しい馬ですよ。今は子馬ですけど、成長したら、それこそ王子の馬にしても良いくらいの見栄えのする馬になりますよ。 それにこの額の星の模様を見てくださいよ。俺たち王都の馬丁に伝わる言葉が昔からあるんですが、まさにこの馬の事の様です。 【千里を駆ける人馬、輝きの印、危機に人の助けとなる】って、選ばれし馬のことですが、これが輝きの印じゃないでしょうか。 よしよし、お前は美しいね。王の騎士団に来るかい?仕事は責任があるが、私たちがちゃんと世話してあげよう。副指揮官、この馬はあまり神経質でもない様です。ああ、可愛いな、なんて愛想の良い馬なんだろう。」 僕は是非とも騎士団に競り落としてもらいたくて、一生懸命ロイに媚を売った。僕たちの様子を見ていた副指揮官も、そっと手を差し出したので、僕はご愛嬌とばかりに鼻先を押し付けた。 副指揮官は険しい顔を緩めると、僕の首筋をすりすりと優しく撫でた。よっしゃ、チョロい。僕はこうして王国騎士団の所属の馬になったんだ。 もっとも、一歳になるまで僕はこの生まれた牧場に預けられた。子馬が騎士団に居ても役立たずだからね。ニールさんとキリルさんは、前以上に気を使って僕を育ててくれた。僕が牧場を離れる日は何だか寂しくて、悲しげにいなないてしまった。 ニールさんたちも僕を優しく撫でながら、目元が光ってたんだ。僕はそれを見たら何だか堪らなくなって、顔を押しつけて最後にありがとうって甘えたんだ。 僕を見送る二人が小さくなるのを、時々振り返って見ていたらロイさんが僕を撫でて言ったんだ。 「お前は大事に育てられたんだな。こんなに人と馬の絆が強いのは見たことがないよ。これから俺とも仲良くしてくれよ?よろしくな。」
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