僕の生還への道

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僕の生還への道

『お前、見ない顔だな。何処から来たんだ。』 濃い茶褐色に黒い部分が多い、軍馬のリーダーらしき黒鹿毛の馬が僕の所までやってきて、胡散臭そうな目つきで僕を見ながら尋ねてきた。 『…あの、僕はぐれちゃって。僕が乗せていた騎士が落ちちゃって…。』 そう弱々しく答えると、リーダーは鼻をフンと鳴らして小馬鹿にした様子で僕に言った。 『なんだ、敵の馬か。そうは言っても今からここの馬になるんだろう。良いか、お前は新参者だからな、生意気言うんじゃないぞ。』 そう言うとさっさと行ってしまった。僕は様子を伺っている他の馬に面倒だったけれど、自分から近づいて挨拶をしまくった。取り敢えずここから脱走するにしても、協力してもらう時があるかも知れないから仲良くはなっておきたかった。 僕は馬丁が個別に餌を配ってくれないと、力関係的に今現在一番下の僕は、大して食べられないかも知れないと顔をしかめた。 丁度その時数人の騎士たちが武具を脱いだ姿でこちらへ歩き寄って来た。僕の方を指差している。…これは吉と出るか、凶と出るか、どうだろう。 「この馬か?お前を弾き飛ばしたというのは。」 そう包帯を巻いた足取りもおぼつかない騎士に尋ねたのは、僕を馬丁に預けた騎士だった。 「ええ、アーサー様、まさしくこの馬です。ここまで真っ黒い馬も珍しいですからね。この馬に乗っていた騎士も凄腕でしたが、この馬は私がその騎士を討ち取る間際に、私の騎乗する馬体に体当たりしてきたんです。 私たちの相手方に扮した作戦を見破ったのは、この馬です。確かにこの馬の騎士は負傷した感覚はありました。私はこの馬が急に進路を敵陣へ変えて走り去っていくのを見てました。 こんな馬は見たことがないです。騎士はぐったりとして馬を動かす事はできてない様でしたから。」 浅黒い目付きの鋭い銀髪の男は、僕をじっと見つめて言った。 「我々もその作戦で後方から攻め込もうと機会を伺っていたんだが、この馬が急に陣から抜け出すと真っ直ぐ此方へやってきて進路妨害をしたんだ。お陰で機会を逃した。 …これは一体どう言う事かな。相当訓練を積んだ馬なのか、この馬が自ら行動したのか、それとも他に理由があるのか…。馬丁、この馬の年齢はどれくらいに見える?」 馬丁は僕をじっくり観察すると自信ありげに言った。 「そうですねぇ、こいつはまだ新馬ですよ。去年の春生まれの馬でさ。」 するとその答えを聞いたアーサーと呼ばれた騎士が、僕に近づいて来て鼻先に手を差し出して言った。 「お前は一体どんな馬なのだ?我らの元で役に立つのか、それとも害を成すのか…。」 さて、問題です。僕は多分このアーサーに媚び売って生き残る道を取るべきなんですよね?イヤだけど!でもそうじゃないと殺されそうじゃない⁉︎
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