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絡まないでよ
『おい、お前。お前だおまえ。だから、お前だって!』
うーむ、聞こえないふりは出来ないみたいだ。僕は、え?僕ですか的なキョトン顔を精一杯貼り付けると、ロッキーの方へ振り向いた。
ロッキーは既にカッカしてるみたいで、歯を剥き出してる。あら、歯並びいいのね。僕がそんな風に現実逃避していると、ロッキーは僕に難癖をつけてきた。
『お前だろ?俺を突き飛ばしたの。お陰で打ち身になったんだけどよ。どう責任取ってくれるんだ?あ?』
僕はしばし考えた。ここであれは戦闘中でお互い敵だったのだし、しょうがありませんよね?などと正論をぶちかましても聞いてくれるようなタイプじゃなさそうだ。
ロッキーの後ろには二頭の子分がニヤニヤしながら付き従っている。他の馬は神経質に耳を彷徨かせていたり、傍観を決め込んで遠巻きにして見ていた。
僕が唯一の助けであるリーダーを目で探すと、あいつは我関せずと柵の方で塩を舐めていた。くそ!わざと知らんぷりだな。リーダーのくせにぃ!
僕はどうしたものかと、ロッキーを見つめて黙りこくった。これは何を考えてるか分からない感じで不安を煽る作戦だ。僕は真っ黒いから、心理的にも圧を掛けられるはずだ。
自慢じゃないが、小学校時代、僕たち兄妹は色白で真っ黒い髪と大きめの切れ長の目のせいで、貞子と俊雄と言われて、同級生たちを恐怖に陥れたこともあるんだ。
僕たちも図に乗って、僕は体操服、妹は白いワンピースで夕方近隣の公園を徘徊して、有名なホラースポットになった事は内緒だ。なんて、僕がうつろな眼差しで思い出に浸っていると、ロッキーは少しビビったようだった。
『…おい、何とか言えよ!』
僕は頃合いだと、目を見開くと、歯を剥き出して、精一杯大きく口を開けると怖く聞こえるように言った。
『…どぁうも…ずびぃまぜぇん…。』
あ、いかん涎がダバァっと垂れてしまった。しかしロッキーたちを見ると、ゆっくりと後退りして、子分と一緒に走り出してしまった。すると、他の馬たちも釣られてなのか、それとも集団心理なのか、みんなして馬場をぐるぐると疾走し始めた。
呆気に取られたのは僕とリーダーで、僕は事のほか涎を垂らしたのが効いたのかも知れないと、ニヤニヤしてしまった。しばらくすると、おずおずとピッツが僕の側にやってきた。
少し距離を取られてるのは僕が怖いのだろうか。僕はにっこり笑うと言った。
『なあ、さっきの僕怖かったか?』
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