王都へ出発

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王都へ出発

誰も乗せずに王都まで行くのは快適そのものだった。一歳になったからって、そんなに人を乗せる事に十分慣れた訳じゃなかったからね。しかも僕って、いわゆるサラブレッドとはちょっと種類が違うみたいだ。 あの競馬で出てくるしなやかな美しい馬、サラブレッド。俺のイメージする馬といえばあれだけど、仲間を眺めた感じからいくと、もう少し大きめでがっちりしてる。 まぁそうじゃなきゃガタイの良い騎士なんて乗せられない気がするし。あれ?騎士を乗せるってことは、僕って戦いの場に行く事になるの? やば、リアル騎馬戦だ。僕は一人馬で。ウケる。一人でそんな事を考えながら、周囲の景色を楽しんでいた。 僕は生まれて一年間、あの平和な牧場でのんびり育っていたから、目まぐるしく変わるこの景色は楽しい。さっきまで森の中でマイナスイオンを吸い込んでいたと思ったら、今度はかなり整備された道を歩いている。 時々見える小さな村の様なものは、絵本に出てくるような素朴な感じでほっこりした。僕がご機嫌なので、ロイさんはにこやかに時々僕を振り返りながら、相方とおしゃべりに興じていた。 実は騎士団へ行くのは僕だけじゃなくて、もう一頭紫のリボンをつけた栗毛も一緒だった。そいつは他の牧場だったから、僕より後で回収されたんだけど、僕を見るなりぎょっとした。何なの? 今もチラチラと僕を見つめているけど話しかけては来ない。まぁロイさんの相方が引き綱してるから、僕たちの間にロイさん達が乗った先輩馬が二頭居るしね。 ロイさんの相方は20代ぐらいの若い男で、多分部下なんだろう。お喋りなタチなのか、さっきから喋り倒してるよ…。 「ロイさん、今回の新馬は両方とも素晴らしいっすね。さすがロイさん目利きが良いや。今回は副騎士官もご一緒だったんでしょ?気合い入ってますね。やっぱり状況が悪いのかな…?」 状況が悪い?気合い入っててそれって…、もしかして戦争でもあるのかな?この国のデータが何にも無いから判断材料が無くて困る…。僕はちょっと神経質になってたんだろう、ロイさんが僕を見つめて言った。 「ヨシヨシ、そろそろ休憩するか。おい、次の街道駅でしばらく休憩だ。お前、こいつの前で迂闊な事言うなよ。こいつは賢い馬だからな。全部分かってるって顔してるぞ。」 思わず僕は、ロイさんの方を見ないようにしてツンとした。あんまり僕が人間臭いところを見せたら、必要な情報まで手に入らなくなる。それは困るからな。ぼくはロイさんに首筋を撫でられながらブルブルと咳払いした。 途中でかなり頻回に休憩を取りながら、僕たちは王都に到着した。案内の先輩馬曰く、今回の旅はいつになく楽ちんだったようで、お前達が随分大事にされてるみたいだと感謝?されたんだけど。 そーなんだと思いながら、お迎えありがとうございましたって言ったら、先輩馬達が、ぎょっとした顔でお前って変わってるなって言われたんだけど…。 やばい、僕、馬社会の適度な付き合い方が分かんない…。
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