ウィルside満月の大騒ぎ

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ウィルside満月の大騒ぎ

「よう、怪我の具合はどうだ?」 ケインに聞かれて、私はニヤッと笑うと脇腹を押さえて答えた。 「もうすっかり良いさ。見かけほど悪くは無かった。あの時フォルが敵の馬に体当たりしてくれたおかげで、剣先が逸れたんだ。」 ケインは少し寂しげに呟いた。 「あいつ、敵に捕まっちまったんだろう?しかしどんだけ頭が良いんだ、フォルは。まさか味方に似せた敵騎士が潜んでいたなんて、全然考えもしなかったよな。 フォルは唯一それに気がついて、お前を助けたばかりか、俺たちをも助けたんだ。お前が運ばれた後、確かにフォルは俺たちと一緒に砦に戻ってきていたんだ。 なのにあいつは急に陣を外れて、後から追いついてきた味方にじゃれついてたんだ。砦に到着した時にそいつらがあまりにも遅いから呼ぼうとしたら、フォルを連れて敵陣へ駆けていってしまった。 あれはウィルを切り付けた味方に扮した敵だったんだ。俺たちは敵将を討った事で、気が緩んで警戒を怠ってしまった。フォルはじゃれついていたんじゃなくて、敵の邪魔をしていたんだって今なら良くわかる。 多分フォルは賢い美しい馬だから、無下にはされていないと思う。でもフォルらしき馬に乗った敵も見かけていない。どうなっているのか…。」 私はケインの話を聞きながら、フォルがいなくなってから味方の陣で習慣になった、砦から敵陣を眺める警備をしていた。 私が怪我で伏せっている間に始まったその習慣は、毎晩警備の兵士の他に騎士が、交代で砦からフォルが戻って来るのを待つ意味もあった。 満月の今夜は当番の騎士に交代を頼んで、私とケインが来ていた。満月は私にハルを思い出させる。まるでハルがひょっこりと戻って来るんじゃ無いかとでも思って。 兵士の一人が、砦近くの森の側で一頭の馬が駆けてきて誰か小柄な少年らしき人間を降ろして、また敵陣に馬だけが戻っていったと言い出した。 私たちは緊張してその森の辺りを見張った。すると騎士が馬に乗ってやって来ると、何かを探している様にウロウロしていた。 「さっき馬から降りた少年を探してるんじゃ無いか?逃げて来たのかもしれない。」 ケインがそう言うと、その騎士目掛けて魔物が飛び出して襲いかかった。同時に小さな影が脱兎の如くこちらの砦目指して走り出した。草原に出たその姿は月あかりの元、黒い髪をなびかせていた。 「「…ハル!」」 私とケインが同時に呼んだ名は、私の愛しい人の名前だった。
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