ウィルsideハルの奪還

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ウィルsideハルの奪還

私は見張りの兵士に応援を頼むと、ケインと共に急ぎ砦出口に走った。 「馬を頼む!」 ケインにそう言うと、私は兵士が開けた出口から走り出した。目の前で追い詰められたハルがもんどり打って転ぶのが見えた。直ぐ後ろには馬に乗った敵らしき騎士が迫っていた。 馬から降りた騎士がハルに手を伸ばしたその時、私はその場に追いついて剣を閃かせて言った。 「その手を離せ!」 ぐったりとしたハルの腕を掴んだ騎士と私は睨み合いながら、間合いを取った。手元にハルが居て分が悪いのは騎士の方だと言うのに、全然隙がなかった。 「これは我が陣の者。お前には関係ない。」 私は油断なく隙を窺いながら言った。 「いや、彼は私のものだ。返してもらおう。」 騎士はチラッと手の中のハルを見て、私を見つめるとニヤリと笑って言った。 「…どうかな?お前のものだと言うのなら、これは我が陣にとって密偵なのであろう?むざむざ渡せると思うか?」 そう言ってグッとハルを腕に抱え直すと、ハルの首元に短剣を当てがった。 「ハルは密偵ではない!地に疎いから迷い込んだに過ぎない!」 すると騎士はハルの顔を覗き込むと、黙り込んでから言った。 「いや、こいつは馬場から馬を連れ出した怪しい男だ。…それにお前に引き渡す義理もないだろう?」 そう言いながらハルと共にジリジリと後ずさって、自分の馬の側へ戻って行く。 「ハルを置いていけば、命は取らない!」 私がそう言って斬りかかると、騎士はハルを自分の盾にして剣を逸らした。その時後ろから数頭の馬の蹄音が響いて、騎士が私の後ろを見た。 私はその一瞬の隙に間合いを詰めると、短剣を打ち払ってハルを騎士から奪い返した。舌打ちした騎士はヒラリと自分の馬に跨ると、サッと方向を変えて走り出しながら叫んだ。 「戦場ではこうはいかぬぞ。大事なものなら、ちゃんと手元に置いておくんだな!」 私はケインたちが騎士を追いかけるのを見送りながら、腕の中でぐったりとして気を失っているハルの顔を見つめた。どうして敵の陣に居たのかは分からなかったけれど、ハルは敵の手を逃れて私の元に戻って来たんだ。 そんな私たちの元に帰って来たケインたちに助けられて、私とハルは急ぎ砦に戻った。擦り傷だらけのハルを手当してもらう必要もあった。 私は抱き抱えたハルの顔を見つめながら、一体何があったのかと顔をしかめながらも、ハルの体温を感じてホッとしたんだ。
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