僕の嘘

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僕の嘘

僕は結局本当の事は言えぬまま、事実と嘘を散りばめてウィルに話した。僕が話した味方の旗というのは本当だ。僕が人参を取りに裏に回った時に隠す様に置いてあったんだ。 僕の話にウィルは頷くと、僕を引き寄せて言った。 「心細い思いをさせて悪かった。でも、ハルはもう、ここの人間だ。不安にならなくても、私が側にいるよ。」 僕はまた恋人のウィルに戻ったことにホッとして身体を預けた。ごめんね、ウィル。本当の事はまだ僕に話す勇気がないんだ。僕でさえ信じられない事を、一体誰が信じるのかな。 僕は自分の不安定な生き方がいつか破綻して、全てが明るみに出るかもしれないって思った。そして一方で、何とかずっと人間でいられる様に出来ないか、方法を探そうと思った。 その時、僕の脳裏に浮かんだのは妹が出てきた夢の中の会話だった。あの時、妹は何かヒントになるような事を言いかけた気がする。でも夢というのは、起きた瞬間からあっという間に煙の様に消えてしまう。 僕はあのネックレスをもう一度見たくなった。ウィルの腕の中から顔を上げると、ウィルに尋ねた。 「…ねぇ、ウィル。僕が預けたネックレス、今持ってる?」 するとウィルは顔を上げて、部屋の机の側に行くと、引き出しを開けて中から美しい細工の小箱を持ち出した。手のひらに置かれたその美しく装飾された小箱を、僕はそっと開いた。 見慣れた僕のネックレスを取り出すと、僕は小箱をウィルに返してベッドに座った。 「何か気になるのか?」 僕はネックレスに何かヒントが無いかと、じっと見つめた。蹄鉄型のチャームはカーブに沿って左右に4個づつの凹みがあった。しかも左右に二つづつ、その凹みに黒い石のようなものが埋まっていた。 僕は大学入学から一年以上愛用していた、このネックレスの蹄鉄のチャームをじっくり見たことがなかったかもしれない。でも黒い石は埋まってなかった気がする。 僕がここに来てからネックレスを調べたあの時はどうだっただろう。凹みはあった気がするけど…。黒い石は?はっきりは思い出せない。でも確か黒い石は左右対称にあった。それがこうして二つづつだったろうか…。 僕はウィルにもう一度ネックレスを返すと、こう言ったんだ。 「このネックレスは僕の運命を握っているかもしれないんだ。僕はウィルの側にいたいよ。運命に逆らってもね。」
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