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戦の終結
それからいく日もしないうちに戦は終結した。僕がフォルとして囚われた日に、敵陣の大将が討たれたことがじわじわと敵国の統率を欠いて影響を及ぼした様だった。
僕はふとあのアーサーと呼ばれていた騎士を思い出して、あのやり手な感じの騎士がまだ若くて良かったとため息をついた。きっとあいつが指揮系統にいたら、まだまだ戦は終わらなかったに違いない。
砦の中も勝利の喜びに沸き立って、一気に疲れも吹き飛ぶお祭り騒ぎのムードが広がった。僕も砦での暫定的な仕事に復帰しながらも、事務方達の冗談を聞きながら笑っていた。
資金部のリーダーは、僕が戻ってきたことに手放しで喜んだ。僕が突然居なくなった事を詫びると、リーダーは首を振って、僕がもたらしたやり方で随分効率が良くなって、その成果を見たらお前を首には出来ないと笑った。
今度は突然居なくなるなよと言われて、僕はまたフォルに戻ってしまうとしたら、何か上手い言い訳が必要だと顔を引き攣らせながら笑って誤魔化したんだ。
一方停戦の締結の際に、指揮官長が捕らえた馬を返してほしいと話したらしい。んーと、それって僕のことだよね…。もちろん向こうの馬場に居るはずもなくて、ね。
ウィルがロイに寂しそうに、フォルは敵陣から逃げてしまったみたいだって言ってた。いつ逃げたかとか詳しくは言わなかったから、ただ単純に逃げて今陣に居ないって言われたのかもしれない。
もし、居なくなったのが僕が逃げ出した日と同じだって言われてたら、僕とフォルの関係性に誰か気づいてしまったかもしれないなんて思った。
…いや、思わないか。僕だったら、人間が馬になったり、馬が人間になったりなんて絶対有り得ないって思う。でもここは魔物が出るようなファンタジーチックな世界だ。
少しは有り得るんだろうか?僕はベッドでイチャイチャの余韻で微睡みながらウィルに尋ねた。
「ねぇ、この国にはおとぎ話みたいのはあるの?小さい頃に読んでもらった童話的なもの…。僕今思い出したんだけど、大きな鳥が助けてくれた人のところに人間になって訪ねてきて、御礼に綺麗な布を織って妻になる話があったよ。」
ウィルは僕の肩にキスしながら尋ねた。
「それで、その鳥人間はどうなったんだ?」
布を織っている時に、自分の羽を織り込んでいた鳥の姿を夫に見られた妻は、泣きながら鳥に変身して飛んでいってしまって二度と戻らなかったと僕が話すと、ウィルは難しい顔をして言った。
「なぜ、戻らなかったんだろう。鳥だろうが、愛しあっていたんだろう?」
そう言うウィルから僕は顔を背けて、星のきらめく窓を見上げて言った。
「きっとその妻は怖かったんじゃないかな。自分が鳥人間だなんて知られて、愛する夫に怖がられたらきっと心が死んでしまうだろうから。…僕にはそんな逃げ出した妻の気持ちが分かる気がするよ。」
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