馬場

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馬場

戦も終わって、10日後の騎士団の王都への大移動の前に、僕はビッツたちの様子を見に馬場へ向かって歩いていた。不意に隣に赤毛の騎士ジャックがやって来て僕に声を掛けてきた。 「よぉ。馬場に行くのか?俺もちょっとビッツの様子を見に行くところなんだ。あいつ、戦でちょっと怪我したんだ。大した怪我じゃないんだが治りが悪くてな。お見舞いに来たんだ。」 そう言って、ジャックは僕に袋に入ったりんごを見せた。僕は馬生活の名残でりんごには目がなかったので、食べたそうにしたのはしょうがない。ジャックは笑って僕にひとつくれた。 僕はりんごを胸元で磨くと、かじって口いっぱいに広がる甘くて爽やかな果汁を楽しんだ。これって、まるでフジみたいだ。 僕が夢中になって食べているのを呆れた様に眺めながら、自分でもひとつ食べ始めたジャックに僕は尋ねた。 「ビッツはどこを怪我したんですか?僕、ビッツとは仲良しだから心配です。」 すると、ジャックは困った様に言った。 「馬丁曰くは怪我自体は大したことがないって事なんだ。俺が見ても怪我はほとんど治りかけてる様に見えるし。ただ、どうも元気がなくてな。 馬丁も原因がわからないし、食欲も無くて心配してるのさ。」 僕は瞬時に戦争で兵士の陥るPTSDを思い浮かべた。ビッツはまだニ歳前の若い馬だ。僕が知らないだけで、この戦争で仲間を失ったのかもしれない。 僕はビッツに直接聞いてみようかと、足を早めた。僕が馬場に到着すると、顔を見せたのはロイさんだった。僕を見て驚いた顔をしたロイさんは、途端にくしゃりと顔を綻ばせて笑って迎えてくれた。 僕が馬たちの様子を見に来たんだと言うと、ロイさんはジャックにも挨拶をしながら言った。 「ジャック様、やっぱりビッツはどうも本調子じゃねえんで。わしも長らく馬丁をやってるが、こんなのは初めてで戸惑ってるんですよ。ハルマ様、よく来ましたね。あんたは馬たちに好かれてるから、みんな喜ぶだろう。」 …うん。多分みんなが好きなのは僕が手配する人参とかだと思うけどね。僕はそう思いながらみんなと久しぶりに顔を合わせるのが楽しみだった。 柵の側に歩き出すと、リーダーがいなないた。すると思い思いに過ごしていた馬たちが一斉に僕たちの方を見た。僕は思わず柵の側まで走り寄ると、リーダーを先頭に皆が駆け寄って来た。 『なんだ、フォル。お前敵に捕まったんじゃなかったのか?』 『フォル、もう会えないと思ってたよ。やったー、また人参もりもりだね。』 『フォル、元気そうだ。何でまた人間になってんのさ。』 僕は一頭一頭撫でたり声を掛けたりしながら、挨拶を済ませた。ふと、ビッツが居ないことに気がついた。ビッツは皆と離れたところで呆然と立っていた。 「…ビッツ?」
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