ビッツの気持ち

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ビッツの気持ち

僕がビッツをひときしり撫でて甘やかすと、ビットはボソボソと話し出した。 『…俺、もうフォルに二度と会えないって思ってた。俺とお前は新馬の同期だし、お前は変な奴だけど出来る雄だ。だから敵に捕まったみたいだってリーダーに聞かされた時も、嘘だろって信じられなかった。 先輩が、敵に捕まっても、きっと戦で会うから無事かどうか分かる筈だって言った。俺はフォルが最悪、敵陣でもいいから生きててくれれば良いって思ったんだ。 …なのに、お前は戦に出てこなかった。自分が見逃したのかと思って他の馬に聞いても誰も見てないって…。だから俺、お前が死んだんだって思って。 そう考えたら、もうなんか、ご飯も不味いし、色々もう嫌になって…。』 僕は柵越しにビッツの首に抱きつくと、ビッツは僕を挟み込んでブルルと甘えた。僕は自分のことで手一杯だったけれど、ビッツや、多分皆に随分心配掛けたんだって改めて思ったんだ。 『ビッツ、僕戻ってきたから。僕、敵の騎士に戦場に連れて行ったら、味方の陣に逃げ出すと思われて連れて行ってもらえなかったんだ。実際、もし連れて行かれたら、絶対騎士を振り落としてこっちに戻ったと思うけどね。』 そう言うと、ビッツは僕の手のひらに鼻先を押し当てて笑った。 『フォルならそうだよな。良く分かってんじゃん、その騎士。』 それから僕とビッツはビッツの怪我の事とか、今度みんなの差し入れにりんご持ってくる事とか、王都にもうすぐ戻るから、ちゃんとご飯食べろとか、ひとしきり話した。 するとポクポクとリーダーがこっちにやって来て言った。 『…お前たちが煩くてかなわん。ああ、フォル。お迎えが来てるぞ?いいのか、あれ?』 僕たちは一斉にリーダーの指し示す方を見た。そこにはいつの間に居たのか、ウィルが柱に寄りかかって立っていた。僕がウィルに気がつくと、ウィルは手を上げてこちらにやって来た。 そして、ビッツとリーダーを撫でると僕の手を引いて歩き出した。 「ウィル、いつ来たの?」 ウィルは僕の顔をじっと見つめると、にこりと微笑んで言った。 「ついさっきだよ。…何となくハルがここに居るんじゃないかって思って、寄ったんだ。」 そう言うと、僕を引き寄せてまじまじと僕を見つめて、そっと口づけた。辺りは暗くて、ひと気は無かったけれど、ウィルが周囲を気にせずにそんな事をするのは珍しかった。 「…ウィル?」 僕が見上げると、ウィルは何か言いたげに僕を見つめたけれど、結局何も言わずにもう一度僕をぎゅっと抱きしめて、貪るようなキスをした。 僕はウィルの様子が変だと思ったけれど、その違和感はウィルの落とす口づけであっという間に霧散してしまったんだ。
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