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ピンチだよね?
僕は何を言われているのか一瞬分からなかったけれど、じわじわとこれは大変なピンチだと気がついたんだ。要は僕がスパイだと思われたって事なんだ。
僕は多分不安げな顔をしたに違いない。リーダーが僕に言った。
「私は君のことを密偵だとは思っていないよ。ただ、見過ごすには、君には不確かな事が多過ぎるんだ。だから王宮でしっかり疑いを晴らした方が良いと思っただけなんだ。」
僕は唾をゴクリと呑み込んで言った。
「…分かりました。僕はこの国に害を成そうなんて少しも考えたことなんてないんです。それを分かってもらえるなら、僕は喜んで王宮に参ります。
…リーダー、この仕事はここまでは終わってますから。あの、今すぐ行くんですか?…そうですか。分かりました。」
黒騎士は今すぐに僕を連行するみたいだった。僕はウィルに何か言付けたかったけれど、黒騎士の前でそれをするのはウィルにまで迷惑が及ぶ気がして出来なかった。
リーダーの部屋を出ると、資金部のフロアの皆が僕の方を心配そうに見つめていた。僕は敢えて明るい表情で皆に挨拶すると、黒騎士に挟まれて廊下へ出て行った。
黒騎士が何を意味するかは僕にはわからなかったけれど、すれ違う人たちの驚きの表情を見るに、滅多にない事なんだと分かった。僕が怪しい?ああ、そうだろう、僕だってそう思うよ。
僕はこれからどうなるのか分からずに、黒騎士に連行されて、王宮へ向かう馬車に乗せられた。黒騎士たちは無駄口は一切なく、僕は気詰まりな空気の中、息をするのも恐る恐るだった。
ウィルが僕が連行されたことを知ったらどう思うんだろう。僕はそれだけが心配だった。そして、これから僕がどんな目に遭うのか全く分からなくって、不安に駆られた。
幸運なのは僕は人間に変幻したばかりで、この世界の次の満月までのあと30日程は人間のままで居られるということだった。勿論30日ほどで解放されるのならだけれど。
僕は密かにため息をつきながら、馬車の中から窓の外を見ていた。こんな時でも、僕の好奇心は留まることを知らず、豪奢な宮殿が遠くに見えてくると心が浮き立った。
「わぁ、凄い。あれが王宮ですか?」
僕が思わず発したのはそんな無邪気な言葉だった。僕はそんな自分の能天気さに呆れたけれど、一方で、この際だから宮殿を楽しむしかないとちょっとワクワクしたのは内緒だ。
でも何処かで地下牢に入れられたらどうしようかと動揺もしていたんだけどね…。
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