連行されました

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僕が黒騎士に前後を挟まれて宮殿内を歩いていると、すれ違う人たちの視線が凄かった。大概は黒騎士を見てギョッとするのと同時に、挟まれている僕を見て目を丸くするパターンだった。 どうせ、何だこの男は、見たことのない顔だと思っているんだろう。それくらい僕の顔はこの世界では違和感がある。でも待てよ?そんなに目立つのにスパイとかって有り得なくないか? もし疑われているのなら、そこから論破できるかもしれない。僕はちょっとだけ疑いを晴らす方法が見つかった気がしてホッとしたんだ。 一方で黒騎士はきっと、秘密警察的なポジションなのかもしれないと思った。白騎士とは色違いの目の前の黒騎士の制服は、黒地に銀色のモールで縁取られていて、そう言う意味では二人ともそこそこの階級らしかった。 そして今のところ、僕と同じエメラルドグリーンの制服を着た者には会わなかった。この制服は騎士団の事務方専用なんだろうか。反対に僕が目にしたのは、明るいのグレーのジャケットにボウタイ、黒いパンツにショートブーツといった騎士服ではない制服だった。王宮の制服なのか? 僕が周囲をキョロキョロと眺めながら階段を登って長い廊下を歩いていると、前を歩く強面な黒騎士が突然立ち止まった。黒い重厚な扉の前に立つ若い黒騎士に何か言うと、扉が開いた。 僕は開けてくれた扉番の黒騎士にぺこりと頭を下げると、扉の中へ黒騎士について入って行った。そこは宮殿内だけあって、見上げる様な天井高のちょっとしたホールの様になっていて、ホールに面して幾つかの部屋の扉が見えた。 窓からは宮殿の中庭の様なものが見下ろせて、僕は首を伸ばして美しく整った中庭を興味深々に覗き込んだ。ああ、噴水とかもあって、あそこを散歩したら気持ちいいだろうな。 僕のちょっとした好奇心と現実逃避は、黒騎士の発した声掛けであっという間に現実に引き戻された。 「…ハルマ シミズ。この部屋に入れ。」 相変わらず無表情の強面の黒騎士に言われて、僕は手前の開けられた扉の中へ恐る恐る入って行った。ここは2階だから地下牢ではない事に希望を持って。 そんなに広くない部屋には、10人ほど座れそうな長いテーブルと椅子が有り、豪華な会議室といった雰囲気だった。まぁ、ここで取り調べされるならば、まだ希望があるかもしれない。 僕は目の前に座った、僕と仲良しの副指揮官と同じくらいの年嵩の金のモールの黒騎士と、記録係っぽい若手の黒騎士の前に座らされた。強面の黒騎士は金モールの黒騎士の隣に座って、何か耳打ちしていた。 僕の後からついてきた銀モールのもう一人は僕から一人分開けた隣の席に座った。 きっと今からガッツリ取り調べが行われるみたいだ。僕はこれからどうなるのか先行き不明で、急に心臓の鼓動が自分でも聞こえるくらいドキドキし始めたのを感じたんだ。
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