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取り調べ
「さて、ハルマ シミズ。今回こちらに来てもらったのは、お前に密偵の疑いが掛かっているからである。幾つか質問に答えてもらう。」
そう言ったのは金モールだった。僕はここは低姿勢で協力的なところを見せた方が良いかと思って、強張った笑顔を見せながら頷いて答えた。
「確かに風貌の違う僕が、こうして疑いを掛けられるのはしょうがないとは思いますが、僕にはやましい事はありません。ですからわかる範囲で、率直にお答えしたいと思います。」
僕がそう言うと、なぜか金モールと銀モールが顔を見合わせた。何だ?少し面食らった表情の銀モールが僕に尋ねた。
「…まず、お前の出身について話してもらおう。」
僕は膝上に置いた握り拳に力を入れながら、騎士団で話した事と違わない事を話した。最初に気づいたのは森の奥の泉であったこと。なぜ森にいたのかは今も思い出せないこと。
騎士団に保護されて事務の仕事をしたこと。自分が周囲と違う事に不安を感じて、自分と似ている人を探して発作的に旅に出たけれど、結局会えなかった事。
気がついたら森の中に迷い込んで、ひと気のある場所にたどり着いたら、敵国の陣だった事。捕まったら不味そうだと夜に紛れて馬を持ち出して逃げ出したら、味方の騎士団の居る砦に辿り着いた事。
敵に追われて捕まる間際に味方の騎士に助けてもらった事。凱旋行進で戻って、今ここにいる事。うん、嘘は少しだけ。流石に馬になった事には触れられない。
強面の銀モールは、手元の資料を見ながら僕に尋ねた。
「資金部のリーダー曰くは、お前は画期的な事務仕事を導入したとある。その知識はどこからのものだ?」
僕は非常に困った顔をして、ボソリと答えた。
「…僕にもなんて言ったら良いのか。自然に頭に浮かんだんです。僕が思い出せるのは、この森の泉からですから。ただ、時々自分の記憶の様にハッキリとしたイメージが湧き上がる事があります。
それと、付け加えるとしたら戦は僕にとっては馴染みがないものです。多分、僕の育った場所にはその様な事が無かったんじゃないでしょうか。僕にはそれ以上の事は、説明できません。」
僕の言葉は、静かな会議室に響いた。難しい顔をした金モールが困惑した様に僕を見て言った。
「確かにお前の様な珍しい風貌の者が密偵として行動するのは、あからさま過ぎて違和感があるのは確かだ。だが、ハッキリとした素性が分からない人間を騎士団で働かせて良いものか…。」
そう言って銀モールと顔を見合わせたんだ。あ、牢屋行きは無さそう?
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