209人が本棚に入れています
本棚に追加
僕の処遇
困惑気味の金モールと銀モールは顔を見合わせた後、僕の隣に座っていた黒騎士に合図すると僕を部屋から連れ出させた。僕はホールの洒落た肘掛け椅子の並ぶ待機所に座りながら、黒騎士の監視下の元、周囲を見渡した。
待機所の反対側には、王宮事務方の仕事場にもなっている様で、5~6人ほどの事務員が、忙しそうに仕事をしていた。僕はその様子を眺めていたけれど、書類の多さは以前騎士団の資金部に初めて訪れた時と同じ状況だった。
僕は肘掛けに指をトントンと無意識に動かしていたみたいで、隣りに座ったお目付役の黒騎士にそっと手で覆われてしまった。
「あ、すみません。何だか皆さんがお忙しそうだったので、僕もお手伝いできたらいいなとちょっと思ってただけです。」
僕がそう言うと、やっぱり面食らった様な顔をしたお目付役は僕をじっと見つめた。その時ホールの大きな黒い扉がバーンと開いて、慌てた様に入って来た人がいた。
僕は思わず立ち上がって、呼びかけた。実際は近づこうとしたのだけど、お目付役に腕を取られて動けなかったんだ。
「副指揮官!どうしてここに⁉︎」
僕の声に反応した副指揮官は僕の方へと急ぎ足でやって来ると、強張った表情で、僕を掴む黒騎士に威圧的に尋ねた。
「君、どうしてハルマが連行される様な事になったんだ。」
すると、僕と副指揮官を交互に見たお目付役は、さっきまで僕たちのいた会議室の方に目を向けながら、少しだけ緊張した様子で答えた。
「は、副指揮官殿。このハルマ シミズは密偵の疑いありという事で事情聴取を受けておりました。只今、黒騎士指揮官がこれからどう処遇するか話し合っておるところです。」
副指揮官は豆鉄砲を食らった様な顔で、僕の顔を見て言った。
「…ハルマが密偵?…ふふ、ふはは、ははは。いや、何処からそんな発想になったのだ。確かにハルマは見慣れぬ風貌ではあるが、ここ3月の間、実に善良そのものであったというのに。」
僕はそう言って僕を庇ってくれる副指揮官をありがたいと思ったけれど、一方で僕の行動は怪しさ満点だということも理解していた。
僕が馬になっている間、人間としてのハルマは忽然と居なくなっているわけで、何処にいるんだという疑いは晴れない気がする。そうかと言って、僕が密偵なんて重要な事が出来るはずもないのは副指揮官もよく分かっているんだろう。
副指揮官は僕を見て肩に手を置くと、黒騎士指揮官に話を聞いてくると言って、さっき話した会議室へと入って行った。僕は祈る様な気持ちでその後ろ姿を見つめたんだ。
最初のコメントを投稿しよう!